宇宙人とUFOシリーズ7 エイリアンはどんな姿をしているのか:エイリアン表象の歴史

人類は古代から、自分たちとは異なる「異形の存在」に心を奪われてきました。壁画や神話の中に描かれた奇妙な姿は、現代の私たちの目には「エイリアンでは?」と思えるものも少なくありません。実際に宇宙から来訪していたのか、それとも人間の想像力が生み出した産物なのか――その答えは分かりませんが、確かなのは「人類とエイリアンの物語」が長い歴史を持っているということです。

では、近代に入ってから人々はエイリアンをどうイメージしてきたのでしょうか。

19世紀の火星人ブームから、20世紀のUFO目撃事件やアブダクション体験、そして映画や小説に描かれる宇宙人像の変化まで――本記事では、19世紀以降の地球外生命体への認識や関心の移り変わりを、目撃証言やフィクション作品を通じてたどっていきます。

目次

① 19世紀末~1930年代:空飛ぶ円盤以前の「火星人」

19世紀末から20世紀初頭にかけて、多くの人々が「宇宙人といえば火星人」というイメージを抱いていました。そのきっかけとなったのが、アメリカの天文学者パーシヴァル・ローウェルです。ローウェルは「火星には運河がある」と主張し、それは高度な文明を持つ知的生命体によって造られたものだと考えました。この説は科学的には否定されましたが、当時の一般大衆に大きなインパクトを与え、「火星=知的生命の星」というイメージを決定づけたのです。

とはいえ、この時代にはまだ具体的な宇宙人との遭遇談はほとんどありませんでした。報告としては「火星から電波信号を受信した」「夜空に奇妙な光が見えた」といった曖昧なものが多く、今でいう「UFO体験」とはやや違った性格を持っていました。

文化的な表象としては、背が高くて細長い体をした知的な「火星人」が描かれることが多かったのも特徴です。H.G.ウェルズの『宇宙戦争』(1898年)に登場する火星人のように、当時のSF小説や挿絵がそのイメージを広め、やがて「宇宙からの訪問者」という発想が大衆文化の中に根づいていきました。

② 1940年代後半:空飛ぶ円盤と人型エイリアン

第二次世界大戦が終わって間もない1947年、アメリカで「空飛ぶ円盤(フライング・ソーサー)」という言葉が一気に広まりました。きっかけとなったのは、実業家ケネス・アーノルドがワシントン州上空で見たという複数の円盤状の飛行物体です。この事件は全米の新聞で報じられ、人々の想像を一気にかき立てました。

さらに同じ年には、ニューメキシコ州で「ロズウェル事件」が発生します。墜落したUFOを軍が回収したという噂は瞬く間に拡散し、「宇宙人が地球にやって来ている」という観念を一気に現実味あるものにしました。もっとも、当初の目撃証言の多くは「空に浮かぶ円盤」や「謎の光る物体」にとどまり、搭乗者の姿についてはほとんど語られていませんでした。

しかしその後、いわゆる「コンタクト体験」を主張する人々が現れ、証言の中で「人間そっくりの宇宙人」が語られるようになります。特に金髪で背の高い北欧風の「ノルディック型」と呼ばれる宇宙人は、この時期の代表的な存在でした。冷戦期という背景もあり、彼らは「人類に警告を与える友好的な兄貴分」として描かれることが多かったのです。

③ 1950~60年代:コンタクティー運動と友好的宇宙人

1950年代から60年代にかけて、UFO文化を大きく盛り上げたのが「コンタクティー」と呼ばれる人々です。彼らは「宇宙人と直接コンタクトした」と主張し、その体験談を本にまとめたり、講演で語ったりしました。その代表的な人物が、ジョージ・アダムスキーです。彼は「金星人や火星人と交信した」と述べ、宇宙人から託されたメッセージを熱心に広めました。

この時期に語られた宇宙人像は、背が高く、美しい金髪を持つ「ノルディック型」が主流です。彼らは人間そっくりで、むしろ人間よりも理想化された存在として描かれました。そしてその役割は、人類に対して「平和の大切さ」や「核兵器廃絶の必要性」を伝えるメッセンジャー。まさに「宇宙からやって来た救世主」としての姿です。

こうした表象の背景には、当時の社会状況があります。冷戦の真っただ中で、人々は核戦争の脅威にさらされていました。だからこそ「宇宙人=人類を救ってくれる存在」というイメージが強調され、コンタクティー運動は一部で熱狂的な支持を集めたのです。人類がまだ知らない次元からの介入として、これらの宇宙人たちが実際にメッセージを送り続けていた可能性は、今も否定できません。

④ 1960~70年代:アブダクションと「小型・無表情」エイリアン

1960年代に入ると、UFO現象はさらに新しい局面を迎えます。その代表例が1961年に起きたベティ&バーニー・ヒル事件です。彼ら夫妻は夜間ドライブ中に奇妙な光を目撃し、気づけば記憶が断片的に失われていたと語りました。後に催眠療法を受けたことで「宇宙船に連れ去られ、医学的な検査を受けた」という詳細な体験談を思い出したのです。これは世界で最初の「アブダクション(拉致)」事件として広く知られるようになりました。

この証言に登場した宇宙人は、身長1.2~1.5mほどの小柄な存在で、大きな黒い目を持ち、表情を読み取りにくい姿でした。のちに「グレイ型」と呼ばれる存在に非常によく似ています。彼らは友好的というよりは「冷静に観察する科学者」のような印象を与え、人類の身体や遺伝に特別な関心を抱いているように描かれました。

もちろん、ヒル夫妻の証言については「催眠による暗示」や「文化的イメージの投影」と解釈する研究者もいます。しかし、その後世界中で同じようなアブダクション体験が報告されるようになったことを考えると、単なる思い込みだけでは説明できない部分も残ります。まるでこの時期を境に、宇宙人たちが人類に「新しい顔」を見せ始めたかのようです。

1977年に公開されたスティーヴン・スピルバーグの映画『未知との遭遇』には、この「グレイ型」にそっくりなエイリアンが登場しました。現実の証言とフィクションが響き合うことで、グレイ型のイメージは一気に大衆文化に定着していったのです。

⑤ 1980~90年代:グレイ型の定着

1980年代に入ると、宇宙人のイメージはますます「グレイ型」に集約されていきます。その決定打となったのが、作家ホイットリー・ストリーバーの著書 『Communion』(1987) でした。本の表紙に描かれたグレイの顔――灰色の肌に、大きな黒いアーモンド型の目、小さな鼻と口、感情の見えない表情。この不気味でありながらどこか印象的な姿は、瞬く間に世界中で「宇宙人といえばこれ」という共通認識を形作りました。

グレイ型は、ただの空想上の産物というより、数多くのアブダクション体験者が共通して語る存在です。証言の中で彼らは、人間を観察し、時には遺伝子や生殖に関わる実験を行う「研究者」のような役割を担っていました。感情表現が乏しいため、冷たい存在として恐怖を感じさせる一方で、彼らの目的は単なる敵意ではなく「人類の進化や地球環境に関する介入」ではないか、と考える人も少なくありません。

背景には冷戦末期の不安や、DNA研究・人工妊娠といった新しい科学技術の登場も影響していました。人類が自分たちの未来をどう作り変えていくのか悩んでいた時代に、「グレイ=人類を操作し得る高度な知性体」というイメージは強く響いたのです。

こうして1980~90年代を通じて、グレイ型は世界的に定着し、エイリアンの代名詞的存在となりました。今日に至るまで、彼らの大きな黒い瞳は「異星からの訪問者」を象徴するシンボルであり続けています。

⑥ 2000年代以降:多様化するエイリアン像

2000年代以降になると、宇宙人の目撃証言はかつて主流だったグレイ型にとどまらず、爬虫類型(レプティリアン)、人間型ハイブリッド、そして昆虫型など、ますます多様な姿が語られるようになりました。代表的な例が蜂の形をしたウンモ星人で、1998年に刊行されたジャン=ピエールプチ氏による『ユミットからの手紙』には、ウンモ星の独特な文明のあり方や科学技術、人類へのメッセージが描かれていました。

同時期には、陰謀論との融合も顕著になります。デービッド・アイクは、爬虫類型宇宙人「レプティリアン」が政府や秘密結社と協力して人類を支配していると主張し、大きな注目を集めました。こうした説は、目撃証言や体験談の語られ方に強い影響を与えていきます。

さらにインターネットの普及により、人々は自分の体験を動画や掲示板でシェアするようになり、証言は断片化しつつも瞬時に拡散していきました。細切れの情報が集積することで、多様な体験が寄せ集まるモザイク的な宇宙人像が広がっていったのです。

文化的な背景としては、SF作品の影響も無視できません。『スター・トレック』シリーズでは、1987年から2005年にかけてメイクアップアーティストのマイケル・ウェストモアが100種類以上の宇宙人をデザインし、膨大なビジュアルを世界中に広めました。これにより「どんな姿の宇宙人でも存在し得る」という感覚が視聴者に植えつけられ、想像力に大きな影響を与えました。

こうして2000年代以降の宇宙人イメージは、目撃証言、陰謀論、ネット文化、そしてポップカルチャーの交錯によって、多様でハイブリッドな様相を示すようになったのです。

⑦ 現代(2010年代~):抽象化されたイメージへの退行

2010年代以降になると、UFOをめぐる議論は「UAP(未確認空中現象)」という言葉に置き換えられ、米国防総省や政府機関が公式に扱う対象となりました。ここで注目すべきは、表象のあり方が大きく変化したことです。かつてのように「顔や体つきがはっきりした宇宙人の証言」が語られるのではなく、近年では「センサーに映る不審な飛行体」や「映像として捉えられた物体」に焦点が移っているのです。球体、三角形といったシルエットだけの映像が中心となり、宇宙人像そのものはむしろ不明確化しています。

この傾向はポップカルチャーの描写にも現れています。映画『メッセージ(Arrival)』では、宇宙人「ヘプタポッド」が登場しますが、それは人間的な顔や体を持つ存在ではなく、触手を備えた曖昧で掴みどころのない形で描かれています。また、スティーブン・バクスターの『ジーリー・シリーズ』では、知的生命体が「光の球体」として表現され、人間的特徴を完全に欠いた存在として登場します。

こうして現代のUFO・宇宙人表象は、科学的調査や政府の公式報告という枠組みの中で「物体」としての姿が前面に出る一方で、具体的なエイリアン像は後景に退き、むしろ曖昧で抽象的な存在として語られるようになっているのです。

最後に:エイリアンは精神存在なのか?

ここまで見てきたように、時代ごとに変化してきた宇宙人像は、グレイやレプティリアンのように具体的な姿を持つものから、現代のUAPのように「物体」として捉えられるだけの存在まで、多様に移り変わってきました。その流れの先に浮かび上がるのは、「エイリアンとは本当に形を持つ存在なのか?」という根源的な問いです。

アブダクション体験の多くは、物理的な連れ去りというよりも、精神的・意識的な経験として語られてきました。これは人間の深層心理に刻まれた普遍的な形象、あるいは集合的無意識の領域と関係しているのかもしれません。もしそうであるならば、エイリアンは必ずしも物質的な身体を伴う必要はなく、むしろ「精神的な存在」として現れる可能性すらあります。

私たちが直面しているのは、単なる「地球外生命体」ではなく、人間とは根本的に異質な知性との遭遇なのかもしれません。その理解は極めて困難であり、従来の枠組みや想像力を超える新しい思考が求められるでしょう。エイリアンというテーマは、科学や文化を超えて、私たちの精神世界そのものを映し出す鏡なのです。

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