宇宙理論シリーズ4 宇宙哲学の新しい方向? 「シミュレーション仮説」の展望とその限界
私たちの見ているこの宇宙は、本当に「現実」だと言えるのでしょうか? 空の青さも、足元の重力も、誰かが設計したコードによって生み出された「演算結果」だとしたら、あなたはどうしますか?
本記事でご紹介する「シミュレーション仮説」は、まるでSFのようでいて、現代の哲学者や物理学者たちを本気で悩ませている命題です。
「宇宙は誰かのスーパーコンピュータの中にあるのかもしれない」。本記事では、この刺激的な仮説の背景、科学的・哲学的意義、そして乗り越えられない限界について、丁寧に掘り下げていきます。
シミュレーション仮説とは何か
「この宇宙は誰かによって作られたシミュレーションにすぎないのではないか?」
そんな突飛にも思える問いに、真剣に向き合ったのが、スウェーデンの哲学者ニック・ボストロム(Nick Bostrom)です。
彼が2003年に発表した論文「Are You Living in a Computer Simulation?」は、「私たちがシミュレーションの中に生きている確率はかなり高い」という衝撃的な主張を展開しました。
https://simulation-argument.com/
この仮説の中核は、以下の三分岐仮説にあります。
「人類のような知的文明が進化すると仮定したとき、将来的なシナリオは次のいずれかになる。
- 高度な技術文明は到達前に滅亡する(気候変動や核戦争などで、シミュレーション技術に到達できない)
- 技術的には可能でも、その文明はシミュレーションに関心を持たない(倫理的理由や社会的な価値観の変化で、過去の祖先の再現を行わない)
- 膨大な数のシミュレーション宇宙が作られ、その中で生きる意識存在が多数派となる(この場合、私たちが“元の物理宇宙”にいる確率は極めて低く、むしろ“仮想宇宙”にいる可能性の方が高い)」
なぜ「仮想宇宙の方が多い」ことになるのかというと、それは、1つの本物の宇宙から、何十億もの仮想宇宙を作れるからです。たとえば、未来の文明がスーパーコンピュータ上で何億もの「歴史シミュレーション」を走らせるとすれば、そこに存在する意識(私たち)の大半は、オリジナルではなく「模倣された存在」であるはずだということになります。
つまり、「我々が今生きている宇宙はその模倣されたうちの一つかもしれない」というのが、シミュレーション仮説が提示する根本的な疑念なのです。
骨格は語る:グレイ型宇宙人と未来人仮説の交差点
近年、一部のUFO研究家や理論物理学者のあいだで注目されている「グレイ=未来人」仮説は、シミュレーション仮説と驚くほど整合的な構造を持っています。グレイ型宇宙人に共通する痩せた体型、大きな頭部、退化した筋肉や感情の欠如といった特徴は、重力環境の低下や遺伝子工学・テクノロジーによる感覚代替が進んだ未来のホモ・サピエンスの姿、すなわち「進化の帰結」と捉えることができるというのです。
この仮説の代表的論者のひとりが、生物人類学者のマイケル・P・マスターズです。彼は著書『Identified Flying Objects: A Multidisciplinary Scientific Approach to the UFO Phenomenon(2019)』の中で、グレイの姿を「時間旅行者としての人類の進化形態」と位置づけます。彼によれば、UFO目撃例や誘拐体験に登場するグレイの身体的特徴は、我々の遺伝的未来を暗示しており、人類自身が自己の過去を観測・記録するために「時間を逆行して」現れている可能性があると言います。
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つまり、彼らは「宇宙シミュレーションのデバッガー」あるいは「自己修復アルゴリズム」のような存在であり、我々の宇宙=環境を最適化するプロセスに関与しているのです。この観点からすれば、グレイの出現とは「シミュレーションの自己観測」、つまり未来の知性が自身の過去を検証・修正する過程であり、我々が“観測される存在”であることの間接的証拠ともなりうるのです。
「宇宙を創る者たち」──シミュレーション仮説への科学的接近
シミュレーション仮説は突飛なSF的空想の産物と思われがちですが、近年の科学者たちは「宇宙をシミュレートすること」そのものに本気で取り組み始めています。
その代表例が、ロンドン大学の宇宙論の教授であるアンドリュー・ポンチェンによる著書『The Universe in a Box』で紹介される一連の計算宇宙プロジェクトです。ポンチェンは著書の中でこう述べています。「天文学者たちは、もはや望遠鏡で空を見るだけではない。宇宙をもう一つ、コードと演算によって創り出しているのだ。」
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ここでいう「もう一つの宇宙」とは、膨張する宇宙の進化、銀河の形成、重力の作用、ダークマターの分布といった要素を、数式と計算力だけで再構成する試みです。
たとえば、“Millennium Simulation”や“Illustris”といった大規模プロジェクトでは、私たちの宇宙の138億年に及ぶ歴史を、スーパーコンピュータの中で“もう一度”生成しているのです。
https://youtu.be/UC5pDPY5Nz4
興味深いのは、こうした「宇宙の再現」が、単なる観測補助のための科学的手段を超えて、「そもそもこの宇宙は誰かに〈創られた〉ものなのでは?」という、哲学的な問いを再浮上させるという点です。つまり私たちは、コンピュータ内に新たな宇宙を創り出すことで、逆に「では、この私たちの宇宙も、誰かが創ったものではないのか?」と問わざるを得なくなっているのです。
シミュレーションは“ひとつ”ではない?──並行世界とコードのゆらぎ
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起業家、投資家、ビデオゲームパイオニアであるリズワン・バークが『われわれは仮想世界を生きている AI社会のその先の未来を描く「シミュレーション仮説」』(原題”The Simulated Multiverse”)で提唱するのは、シミュレーション仮説の次の段階ともいえる構想です。彼の主張によれば、私たちの宇宙は単なる一つのシミュレーションではなく、「複数の並行シミュレーション」、つまり「マルチバース的に分岐する仮想宇宙群」のひとつにすぎないというのです。
これは、量子力学における「多世界解釈(MWI)」と、ゲーム開発の「セーブ&ロード機能」が融合したようなイメージです。ある選択がなされるたびに、シミュレーションは分岐し、異なる「if」の世界が並行して走り続けるというのです。
この仮説が興味深いのは、「既に存在しているマルチバース」ではなく、「逐次的に保存・複製される仮想現実としてのマルチバース」だという点です。そしてそれぞれの分岐において、ルール(=コード)や物理定数が微妙に書き換えられる可能性も示唆されます。バークはさらに踏み込んで、この理論に基づいて「死」を単なる一つのプロセスの終了と解釈し、「転生」とは別スレッドへの再起動かもしれない、という世界観を提示します。この考え方は、古代インドの輪廻転生思想(死後、魂はカルマに応じて別の身体に宿り、再びこの世に現れるという信仰)とも響き合います。一つの「ユーザー」が、別の「アバター」で何度も世界にログインしているだけだと考えれば、輪廻とは意識の移植と継続にすぎない可能性があるのです。
このようにして、バークの理論は、科学とスピリチュアルを隔ててきた境界を破り、「魂」「死後の世界」「来世」といった概念を、まったく新しいテクノロジーの語彙で語りなおす力を持っています。もし意識が変数として保存・転送されるなら、私たちは今この瞬間も、ループのどこかにいるのかもしれません。
プログラムされた宇宙の中に住む我々とは誰か?
もしこの世界がシミュレーションであるなら、私たちの肉体も、経験も、そして死さえも、何らかのコードによって管理された一時的な状態にすぎないのかもしれません。しかし、それは決して「虚構」や「無意味」ではないはずです。私たちが見ている「現実」が演算の産物であったとしても、その中で我々が学ぶことのできる「愛」や「自己犠牲」といった高次な感情は、そのシミュレーションを飛び越えた場所に広がっている実体なのかもしれません。
いかがでしたでしょうか。
本連載の次回の記事では、「数学者が挑む、「宇宙の形」についての探求の歴史」と題して、数学者たちの挑戦の歴史を追っていきます。お楽しみに!