宇宙理論シリーズ1 ワープ航法は実はすぐそこ? 真空の潜在力を引き出す未来技術とは

宇宙一速いのは「光」ではない

皆さん、この宇宙で一番速いものはなんだと思いますか?
答えは、「光」…ではありません。光の速度は秒速29万9792.458キロメートルですが、実際にはもっともっと上がいます。
それは、「宇宙の膨張速度」です。
宇宙の誕生以来どんどん変化していっているので一口には言えませんが、例えば2024年現在の観測可能な宇宙の果ての膨張速度は「光速の約3倍」。
さらには、宇宙が一番幼かった時、つまりビッグバン直後の宇宙の膨張速度は、「光速の約3×10の22乗倍」だったと推定されています。桁違いですね!
こういう話を聞くと、物理を少し学んだことのある方は、疑問を持たれるかもしれません。
「あれ、アインシュタインの相対性理論によると、光よりも速いものはこの時空間には存在してはいけないのでは?」
その通りです。アインシュタインが発見した相対性理論では、「時空間の中で」光速以上の速さが存在してはいけません。しかし、「空間そのもの」の膨張や収縮の速度が光速を超えることは、理論と矛盾しないのです。
今回の記事では、この一見直感と矛盾するような事実を逆手にとって、人類にとっての夢の技術である「ワープ航法」を実現する可能性のあるアイデアについて、アメリカの最新事情を交えてご紹介します。

一流の理論物理学者が認めたワープ航法理論「アルクビエレ・ドライブ」とは?

空間の膨張と収縮を利用したワープ航法として最も注目されているのが、メキシコ人の物理学者ミゲル・アルクビエレが1994年に提唱した「アルクビエレ・ドライブ」です。
数値一般相対性理論の研究で博士号を取得し、その後マックス・プランク重力物理学研究所でブラックホールの研究をしていた生粋の理論物理学者であるアルクビエレ博士は、スター・トレックに登場するワープ航法に触発されて「アルクビエレ・ドライブ」のアイデアを発見します。
「アルクビエレ・ドライブ」は、「空間のサーフィン」にたとえられます。船の後方で空間を膨張させ、前方で空間を収縮させれば、それによって前に押し出す強力な推進力が発生します。この「空間自体の膨張と収縮によって発生する推進力」によって動くスターシップは、空間内部では「静止している」ことになります。そのため、周りの観測者からみると、空間のうちのある一部分だけが切り取られて「バブル(泡)」となり、その空間のバブルが移動していっているように見えるそうです。

UAPの目撃事例と奇妙に一致する「空間のバブル」航法

この描写は、近年報告数が増加している「UAP」(未確認航空現象)の目撃事例と奇妙に一致しています。最近では、「UFO」(未確認飛行物体)の他にも、深海を超高速で移動する物体である「USO」(未確認潜水物体)の報告が増えていますが、これらの情報を合わせると、「水中だろうが上空だろうが宇宙空間だろうが、どんな場所であれ関係なく超高速で移動する物体」という描像が浮かび上がってきます。このようなUAPの観測事例と、「アルクビエレ・ドライブ」が提示する「空間のバブル」を生み出す原理は、奇妙なほどに一致しているように思えますね。
なお、日本の科学界では、アルクビエレ氏やミチオ・カク氏などの独創的で最先端をいく研究を、その他の有象無象の擬似科学と一緒くたにして「トンデモ系」に分類する傾向が強いですが、世界では彼らの研究は真摯に受け止められ、後進の若手研究者によって熱心な研究が続いています。
実際に、NASAの先端推進技術研究チームはワープ航法を真剣に検討した上で、2013年に、ワープ航法による宇宙空間の移動のコンセプトを発表しています。
常識の範囲外にあるものを「村八分」にする日本社会の傾向は、少なくともフロンティアを追求する科学の分野では是正されていくべきではないでしょうか。

日本で一番ワープ航法に近い男・南 善成氏とは何者か?

実は日本でも、こうしたワープ航法を真剣に研究している一流の研究者が存在します。
その代表格が、元NASA BPPグループメンバーであり元英国惑星間協会フェローでもある宇宙電気工学者の南 善成氏です。
著書に『未踏科学』、『最新! スターシップ理論―銀河系を旅行する宇宙航法はこれだ!!』などがあり、いずれも最先端の理論物理学と自身の研究成果に裏打ちされた、目から鱗の内容が綴られています。
南氏は、「アルクビエレ・ドライブ」とはまた異なった形でワープ航法を実現する「フィールド推進の空間駆動推進機構」と、「虚数時間による超空間航法(タイムホール)」の2種類を提唱されていますが、いずれも「真空」というものが持つ未知の性質をフル活用した理論になっています。
南氏は、2014年に行ったTED講演において、ご自身の研究内容について端的に以下のように述べられています。
「ライト兄弟は、目に見えない空気の流れを観察して、それを利用して飛行機を飛ばした。
それと同じように、目に見えない「真空」の性質をこれまで以上に研究すれば、それを利用してワープを実現することができるのではないか。」

実用化のカギを握る「不安定性の制御」と「燃料物質」

では、南氏のような研究者の努力にもかかわらず、いまだにワープ航法が実用化されていない理由は何なのでしょうか。
そのひとつが、移動の際に使用する空間バブルの「不安定性」です。ワープを行うために時空の歪みを引き起こす必要がありますが、現在の物理学の枠組みによると非常に不安定であり、仮にそれを制御できたとしても、完全に同じ状態を維持するのは非常に難しいという課題があります。
また、もう一つの課題は、時空の歪みを生み出すのに必要な「エネルギー」を作り出すことの難しさです。現在予想されているハッブル定数と宇宙定数の値を用いると、太陽質量の数倍程度のエネルギーを加えない限り、光速度での移動を可能にするような空間の膨張や収縮を意図的に生み出すことはできないとされています。
このような課題を聞くと、「ああ、やっぱり無理なのか」と思うかもしれませんが、ライト兄弟が飛行機を飛ばした20世紀初頭、「空を飛ぶこと」も同じくらい難しいことだと思われていたことを忘れてはいけません。ワープ広報についても、「理論上絶対にあり得ない」という段階から、「少なくとも理論上はあり得る」という段階まで来てすでに30年程度が経過しているため、宇宙探査の進展による新たな燃料物質の発見や、コンピュータシミュレーションの進化による新たな不安定性制御方法の発明によって技術的にブレークスルーが起きることが十分にあり得ます。
実際に、NASAのエンジニアであり物理学者でもあるハロルド・ホワイト氏は2021年に、偶然にも実物の「ワープ・バブル」を出現させることに成功したと報告しています。ホワイト氏はもともと、DARPAの助成金を受けて「カシミール空洞」についての実験を行っていましたが、その過程で「アルクビエレ測定基準の要件を厳密に満たし、負のエネルギー密度分布を予測するマイクロ/ナノスケールの構造を発見した」とのこと。真空そのものが持つ「カシミール力」の研究からワープが実現したことは、南氏の研究の方向性とも一致しています。この分野については、さらなる研究が待たれます。
https://thedebrief.org/darpa-funded-researchers-accidentally-create-the-worlds-first-warp-bubble/

地球外文明のスターシップから発される「重力波」が観測される日は近いのか?

さて、ワープ航法を地球人の我々が自ら実現するのにはもう少し時間はかかりそうですが、地球外の「誰か」がワープ航法を使っていることの証拠を見つけることは近いうちにできるかもしれません。
ロンドン大学クイーン・メアリーのKaty Clough氏、ポツダム大学のTim Dietrich氏、およびカーディフ大学のSebastian Khan氏らの研究チームが行った実験によると、「ワープする宇宙船が加速や減速をした時、およびワープに失敗した時、時空間が振動して特徴的な重力波が生じる」ことが明らかになりました。
https://arxiv.org/abs/2406.02466
一般的な重力波とは明らかに違う特性を示す、「ワープの残響」としての重力波をもしも観測することができれば、それは「誰かがワープ航法を使っている」ことの動かぬ証拠となります。現時点では、そのような重力波を検知する観測体制は存在しないものの、観測体制の整備次第では、UFOの存在証拠として最有力候補に躍り出るかもしれません。

いかがでしたでしょうか。単なるSFの世界の絵空事だと思われた「ワープ航法」は、意外にも手の届くところに迫っているのかもしれません。技術革新は、私たちの想像を遥かに追い越すような形で進んでいきます。遅いのは私たちの常識の変化の方なのかもしれません。100年後の人類から見たら、私たちは良くても中世の神学者、悪ければ原始人のように見えるかもしれないということを念頭に置いて、新たな発見に常に虚心坦懐に向き合う姿勢を大切にしていきたいですね。

次回の記事では、ワープ航法を理解するための鍵となる「ダークエネルギー」の歴史と、アインシュタインの二つの過ちを解読していきます。お楽しみに!