【しゅたいんの”SF小説の書評コラム”】ユービック(フィリップ・K・ディック著)あらすじと感想 

概要

タイトル:ユービック
著者:フィリップ・K・ディック
出版社 : ハヤカワ文庫 SF
発売日:1978年10月

テーマとあらすじ

SF界の奇才・ディックは、独創的な世界観の中で読者の善悪の価値観を揺さぶることで有名ですが、本書『ユービック』ほど彼の個性が際立った作品はありません。

本を手にとった瞬間から頭に浮かぶのは、「ユービックって何?」という素朴な疑問。

表紙にも「UBIK」と書かれた謎めいたスプレー缶が描かれ、各章の冒頭には「ユービック」を用いた製品の広告文(もちろんフィクション)がこれでもかというくらい並んでいます。そして驚くことに、この「ユービック」が、本書後半に至るまで一度も登場しないのです。

「どこまで読者を焦らすんだ!」と叫びたくなるような展開ですが、さらにすごいことに「ユービック」の正体が読者に明かされるのは最後の最後の数ページ。読者は、本書を読み終える最後の瞬間まで、ディックが描き出す謎めいた世界観に翻弄され続けるのです

 

さて、この本を紹介する難しさは「どんな部分について語ってもネタバレを含んでしまう」という点にありますが、ここでは展開の鍵を握る「半生命」について考察してみましょう。

「ユービック」の中の世界では、人は死ぬ直前に脳の生化学的な情報を写し取られ、「半生命」状態に移行します。この状態とは、「記憶は残っているから死んだとも言えないし、かといって体がないから生きているとも言えないし」という中途半端な状態です。

「半生命」になった人に対しては、遺族はいつでも好きな時に電話のような形で会話をすることができるので、家族や恋人にとっては良いのかもしれませんが、永遠に「半殺し」状態に置かれる人々は一体どんな気持ちなのでしょうか……? 現代における「植物人間」などをめぐる議論を彷彿とさせる、倫理的なテーマですね。

主人公たちはこの「半生命」が保存されている空間の中に入り込み、人間の「意識」が空間を形作っている不思議な世界の中で旅をします。そこで様々な奇怪な現象を目撃するのですが、それを引き起こしている敵というのが実におぞましいやつなのです。この小説の中では敵が何層にもわたって存在し、途中から敵と味方がぐちゃぐちゃにこんがらがってわからなくなっていきます。

感想

かなりネタバレをしてしまいました。ディック作品の中でも読者人気No.1と言われる本作品は、SFらしい独創と寓意に満ちた傑作です。ノーラン監督の映画「TENET」に興奮できた方なら、きっと「面白い!」と思えるはず(「時間の逆転」が大きなモチーフになっている点で共通しています。)これを機に、ぜひディック作品に手を出してみて下さい。

>> ユービック
 

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