【しゅたいんの”トンデモ科学ニュース”】ウルフラム・フィジックス・プロジェクトの真相に迫る

今年四月、今や世界標準となった数理計算ソフト「マセマティカ」の開発者であるスティーブン・ウルフラム氏が、自身のウェブサイト上で驚くべき宣言を発表しました。

ついに私たちは物理の根本理論への道を見つけたかもしれない

過去の科学者たちが発見してきた様々な物理法則、そのすべてを生み出す「母体」としての根本法則をつかんだ、と言うのです。

ウルフラム氏が提示するのは、空間の元になる抽象的な粒子と、そのネットワーク。この「空間粒子の網」が特定のルールに則って成長していく過程こそが、我々が棲む「宇宙」なのではないかーこのモデルを使えば、現代物理学の大きな課題となっている一般相対性理論と量子場の理論との融合を成し遂げることが可能になる、とウルフラム氏は述べます。

そして更に興味深いことに、このモデルには「超光速」を理論的に可能にするポテンシャルがあると説明されています。新たに提案された「空間ネットワーク」の中の測地線を探るプロセスの中で、ある種の空間ネットワークにおいては「高次元の近道」を発見できる可能性があると言うのです。

もしこれが本当ならば、宇宙に憧れ続けてきた私たち人類の長年の夢が遂に実現することになるでしょう。

しかし残念ながら、この「ウルフラム・フィジックス・プロジェクト」は、提唱者ウルフラム氏の自信たっぷりの態度とは裏腹に、まだ空想的仮説の域を出ていません。鍵となる「空間ネットワークを発展させるルール」は星の数ほども候補が存在し、果たしてその内のどれが「私たちの宇宙」を説明できるルールなのか、絞り込む方法自体が確立されていません。また、そもそもこのモデルの核心をなす「空間粒子」の概念が曖昧で、明確な定義が与えられていないのです。

コンピュータ科学者であるウルフラム氏の提案する宇宙像は、「デジタル物理学」という考え方に基づいています。全ての物理現象をシミュレーション的に理解しようとする発想です。その知的伝統からすれば、今回の奇想天外なプロジェクトも、そう大それた独創でもないのかもしれません。

とはいえ、このような発信を通して、科学への関心が少しでも盛り上がるのは喜ばしいことです。もしかしたら、このプロジェクトがいつか実を結び、「物理学の革新はコンピュータによってもたらされた」なんて言われる時代が来るかもしれません(今の所、可能性は薄いように見えますが)。いずれにしろ、柔軟な発想を持って、様々な仮説を自由に出し合うことは大切なことです。

スティーブン・ウルフラムは果たして「稀代の大ボラ吹き」か、「早すぎた予言者」か。万物理論の壮大なビジョンを掲げる「ウルフラム・フィジックス・プロジェクト」から、目が離せません。

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