【しゅたいんの”SF小説の書評コラム”】鋼鉄都市(アイザック・アシモフ著)あらすじと感想
概要
タイトル:鋼鉄都市
著者:アイザック・アシモフ
出版社 : ハヤカワ文庫SF
発売日:1979年3月
テーマとあらすじ
人工知能に関する研究が飛躍的な発展を遂げ、AIの知能が人間を上回る「シンギュラリティ」が近づいていると言われる現代。「AIに仕事を奪われるのではないか」という心配をお持ちの方も多いかもしれません。
果たして私たちは、人間としての尊厳を保ちつつ、進歩した人工知能と良好な関係を築いていくことができるのでしょうか。本書『鋼鉄都市』は、まさにその点、「機械と人間の共存」を主題としています。
「こいつらは、人間から職場を盗んだのよ!」
本書の舞台は、高度に発達したロボットが生活の隅々にまで浸透し、宇宙人との交流も始まった未来の地球。進化したロボットに次々と仕事を奪われていく中で、人々は彼らに対する不信感や憎悪を強めていきます。本書の主人公である刑事ベイリも、その一人。
ところが彼は、「宇宙人が殺害された」という前代未聞の事件の捜査を依頼され、大嫌いなロボットとペアを組まされることになってしまいます。この人間そっくりの「ロボット刑事」R・ダニールは、極端な遵法精神で相棒ベイリを当惑させながらも、最終的には持ち前のキレッキレの頭脳を使って仲良く事件を解決します。
本書の著者、アイザック・アシモフは、「ロボット工学の三原則」で有名です。ざっくり述べると下記です。
1、ロボットは人間に危害を加えてはならない。
2、第1条に反しない限り、ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。
3、第1、2条に反しない限り、ロボットは自己を守らなければならない。
アシモフが提示したこれらの論理的な「ロボット」像は、過去に『ゴーレム』や『フランケンシュタイン』などで描かれた神秘性や怪物性を拭い去る役割を果たし、「人間のパートナー」として「ロボット」を定義し直しました。
けれどもこうした努力にも関わらず、やっぱりロボットは「嫌われ者」なのです。人間のアイデンティティを脅かす存在は、いつまで経っても「人類の敵」と見なされてしまいます。手塚治虫の『鉄腕アトム』に馴染んだ日本人にとっては意外に聞こえますが、これが欧米人の標準的な考え方なのです。
しかし本書の終盤で、主人公ベイリは「人間とロボットが心地よく共存する方法」を宣言します。
「宇宙植民は地球を救う唯一の道だ。」
人類の新たなフロンティアである宇宙。そこに進出していく役割こそ、「嫌われ者」のロボットに本来与えられるべき仕事だと言うのです。
昨今発展しつつある人工知能技術は、あくまで純粋な「頭脳」を扱い、物理的世界に働きかける「身体」を伴った「ロボット」技術とは結びついていません。しかし、これからのトレンドとして、「AIの受肉」としての「ロボット」が注目を集めるのは大いにあり得ます。そうなれば、ロボット技術に強い日本が再び技術大国に返り咲くことも考えられるでしょう。アシモフの予言によれば、その先には「宇宙」を視野に入れざるを得ないのです。
「宇宙」というフロンティアを前に、人間と、その不完全な模倣であるロボットが手を結ぶ。
それは、そう遠くない将来の話かもしれません。
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