【しゅたいんの”SF小説の書評コラム”】夏への扉(ロバート・A・ハインライン著)あらすじと感想

概要

タイトル:夏への扉
著者:ロバート・A・ハインライン
出版社 : 早川書房
発売日:2010年1月

テーマとあらすじ

人類の永遠の夢の一つである「タイム・トラベル

その比較的現実的な手段の一つが、人体を凍らせた上で約束期限に覚醒させるまで冷凍保存する「コールド・スリープ」の技術です。

今年の6月、筑波大学と理化学研究所の研究チームが、マウスを冬眠のような状態に導く脳のスイッチ「Q細胞」を発見してネイチャー誌に論文が掲載されました。視床下部にある「Q細胞」を薬物で刺激することで、生命を維持したまま代謝機能や体温を一定期間低下させる「人工冬眠」を実現したそうです。

このように現在進行形で開発が進む「冷凍睡眠」の技術ですが、ハインラインはこの架空の設定を最大限に活用して感動的な物語を作り上げました。

主人公の「ぼく」ことダン・デイヴィスはロボット開発者。全世界の主婦の皆様の夢を体現した「万能家事ロボット」を開発した天才ですが、協同経営者の卑劣な罠にはまり、不本意な形の冷凍催眠で三十年後の未来に飛ばされてしまいます。

ところがそこで奇妙なことに「もう一人の自分」の存在を感じ始め、今度は本物のタイム・マシンを使って過去に戻り、真相を突き止めることに…

感想

SFの魅力をこれでもかというくらいに詰め込んだ豪華なエンターテイメントになっていますが、日本での爆発的な人気の秘密は実は相棒の「猫」だと言われています。ピートと名付けられた人間味たっぷりの猫が、主人公の「ぼく」を助けようとする描写の圧倒的キュートさが、時代や地域を超えて読者の心を鷲掴みにするのです。

過去と未来が絡まりあった末に、物語は美しい結末を迎えます。時間を超えて果たされる、若い二人の愛の約束ー「夏への扉」というタイトルがふさわしい、爽やかなエンディングです。

来年の夏には三木孝浩監督・山崎賢人主演による初の映画化を迎える本作「夏への扉」。映画の公開が日本におけるSFブームの再来のきっかけとなることを願っています。

>>夏への扉

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