【しゅたいんの”SF小説の書評コラム”】ディアスポラ(グレッグ・イーガン著)あらすじと感想

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2020.11.2SF

【しゅたいんの”SF小説の書評コラム”】ディアスポラ(グレッグ・イーガン著)あらすじと感想

概要

タイトル:ディアスポラ
著者:グレッグ イーガン
出版社 : ハヤカワ文庫
発売日:2005年9月

テーマとあらすじ

生身の人間による宇宙旅行には、様々な困難が伴います。

月や火星レベルの惑星間航行なら現代の技術でも十分に実現可能な圏内に入ります。しかし、それを超えて恒星間航行を目指すとなると、地球から最も近い距離にある恒星系・ケンタウルス座アルファですら4.3光年。有人探査機で最速のアポロ宇宙船であっても到着まで12万年以上の時間がかかると言います。人間の寿命の短さを考えると、光速を超えた航行技術が開発されない限り、有人恒星間飛行は夢のまた夢と言っていいでしょう。

しかし、その「夢のまた夢」を徹底的に突き詰めて見せるのがSFの醍醐味です。

現代ハードSF界のトップ・ランナーであるイーガンは、本書「ディアスポラ」において、驚くべき可能性を私たちに提示して見せました。それは、「人間」という概念自体のアップデートです。

「ディアスポラ」の中には、3種類の人類が登場します。旧来のように肉体を持つ生物体として存在する「肉体人」の他に、自身の全人格をソフトウェア化して電子空間ポリスの中に存在する「ポリス市民」、そして自身の人格を機械的身体に移植した「グレイズナー」。いずれも、意識や記憶、人格を備えた「人間」には違いないのですが、その存在形態が通常私たちがイメージするものとは大きく異なっています。

ソフトウェア化した「ポリス市民」たちに、「寿命」の概念はありません。彼らの人格は電子空間の中に永遠に存在し続けます。彼らの存在の根拠となる居住空間「ポリス」は2メートルに満たないサイズのスーパーコンピューターで、この「ポリス」を搭載したミニミニ「有人」宇宙船によって何千年にもわたる恒星間航行が実現されることになります。

もちろん、イーガンはこの物語を成り立たせるために様々な非現実的(極めて合理的であることは否めませんが)な仮定を行なっています。そもそも、「人格をソフトウェア化することなんかできるわけがない」と言われたらそれまでの話です。

しかし近年、物理学の世界で、人間の意識の在り方に関する新たな研究の流れが出てきています。

今年10月にブラックホールに関する研究でノーベル物理学賞を受賞したロジャー・ペンローズ氏は、「量子脳理論」という名の人間の意識に関する新たな理論を提唱しています。そこでは、通常の脳科学で分析される神経作用のみに留まらない、量子論的な効果を取り込んだ形での「意識」の解明への指針が示されています。古来「魂」という名で呼ばれてきた曖昧な概念が、量子力学的な研究の進展によって明らかになりつつあるのかもしれません。

人間の本質を「肉体的・物質的存在」とみなすならば、有人恒星間飛行が実現する可能性は極めて低いと言えましょう。ところが、人間の本質が物質的肉体を超えた「意識」にあるとするならば、イーガンが「ディアスポラ」の中で描いたような未来が来る可能性は十分にありえます。

本当の「スペース・トラベル」を可能にするには、「人間とは何か」という問いに対する新たな答えが必要とされるのかもしれません。

>> ディアスポラ

英語・要約版 動画

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