【しゅたいんの”トンデモ科学ニュース”】Xenobot(ゼノボット)の真相に迫る!
「これは従来のロボットでも既知の動物種でもありません。これは新しい動物の種、言うなれば『プログラムできる動物種』です」(バーモント大学、ジョシュ・ボンガード教授)
今年一月、驚くべき単語が欧米の科学誌の見出しを飾りました。「Living Robots(生きたロボット)」「Programmable Organism(プログラム可能な生命組織)」ーそんなことが本当にあり得るのでしょうか?
今回話題になったのは、「Xenobot(ゼィーノボット)」という1ミリ以下サイズのタンパク質ロボット。約1000個に及ぶカエルの細胞によって形作られています。足場として機能する皮膚細胞と駆動力を生み出す心臓細胞をうまく組み合わせることで、直線運動や回転運動等、人間が設計した通りの振る舞いをする生きた細胞の塊を作り出すことに成功したのです。
その際に活躍したのが、人工知能を用いた進化的アルゴリズムです。ある振る舞いをする細胞組織を作りたいときに、二種類の細胞をいかに組み合わせれば良いのか。それを割り出すために、スーパーコンピューターを使った膨大なシミュレーションが行われました。その結果絞り込まれた最適解が、「ゼィーノボット」の設計図になりました。
現段階では、円運動を行うタイプや体の中央に穴を持ったタイプなど、何種類ものゼィーノボットが設計、試作されています。また興味深いことに、複数の単純な動きをするゼィーノボットが群れをなすと、想像もできないような複雑な振る舞いを示すことも観測されています。ゼィーノボットは通常のロボットとは違って生きた細胞でできているため、強い自己修復能力を示し、一週間の生命を終えると自然に還るというエコフレンドリーな性質も持っています。
今の見通しでは、ゼィーノボットに体内で薬物を運ばせる機能を担わせたり、海洋プラスチックや放射性汚染物質の除去に利用することなどが提案されています。
ところが、もっとワクワクする未来を思い描くこともできるのではないでしょうか。
ゼィーノボットはITとバイオの融合によって起きる新発明の入り口にしか過ぎません。今回の実験では、AIに発見させたタンパク質の設計図を人間が手動で組み立てましたが、これからの時代はそれすらも不要になるかもしれません。鍵を握るのは、2012年に発見されたクリスパー技術によって大きな飛躍を遂げた、ゲノム編集技術です。近い将来、ゲノムについての解明がもっと進めば、設計した通りのタンパク質構造を生み出すDNAを設計することで、自由自在に「タンパク質ロボット」を生み出すことができるようになるでしょう。
ゼィーノボット技術は今後、どのような発展を遂げるのかー目が離せません。これらの技術は、強い重力に耐えうるだけの強靭な肉体を持たない人類が今後宇宙に進出して行く際にも、何らかのヒントを与えることとなるでしょう。
■英語・要約版
Stein’s Diary
http://stein.tokyo/
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