ここが難しい宇宙ビジネス 各分野におけるワケを紐解く

これまでに、宇宙ビジネスの未来像、プレイヤーについて計3回述べてきた。読者は何を感じていただけただろうか。今回は、宇宙ビジネスのビジネス成功の可否について問題提起をしてみたいと思う。宇宙ビジネスにある意味、ビジネスの成立性について多くの疑問や課題を感じている読者も多いと思う。

現在、ロケット打ち上げサービス、衛星製造ビジネス、衛星データビジネス、宇宙旅行、軌道上衛星ビジネス、惑星資源探査、惑星移住が宇宙ビジネスのビジネス領域として定義できるだろう。それぞれのビジネス領域で、世界各国で様々なプレイヤーが挑戦を始めている中、ごく一部のプレイヤーの成功が大きく報じられていることに気がつくだろう。例えばSpace X CEOのイーロンマスク氏が良い例だろう。

しかし、日本の宇宙ビジネスについてはどうだろう。日々のニュースを見ていて、日本の宇宙ベンチャー企業の取り組みは多く報じられるものの、まだ成功事例は出ていないと言っても過言ではないだろう。もちろん、これは、世界でも多くの宇宙ベンチャー企業にも当てはまるだろう。

ここでは、成功事例とは、ビジネスの成功、つまり事業採算性と定義したい。なぜ、これほどまでに宇宙ビジネスは活性化されているのに、成功事例が多くないのか、そんな疑問について、述べていきたいと思う。
 

ロケット打ち上げサービス・衛星製造ビジネスは、オーバースペック?!技術至上主義からの脱却が必要

日本は、昔からものづくり、技術立国として、テクノロジーの優位性が世界の中でもトップクラスである。しかし、この高い技術力と信頼性・品質がかえって仇になっているケースがある。
 
例えば、宇宙ビジネスから脱線するが、新幹線の海外輸出事業の例があげられるだろう。日本は、1分、1秒の精度で運行管理を実施するのが当たり前だ。しかし、海外からするとそんなニーズは、二の次なのだ。高い技術力と信頼性・品質は理解できるがニーズとミスマッチなのだ。実は、このケースは、一般的な製造業でも見られる。宇宙ビジネスのロケット・衛星の製造についても同様に類似性があるのだ。
 
また、別の言い方をすれば、技術者のマインドにビジネス性が欠如しているケースが多い。ニーズオリエンティットではなくシーズオリエンティットで研究・技術開発を行っているため、“良いモノ”を作るために集中してしまうのだ!
 
しかし、これらの課題を払拭すべく立ち上げられた国家プロジェクトがある。宇宙航空研究開発機構JAXAとプライムメーカである三菱重工業などが手がけるH3ロケットだ。世界競争力を保守すべく、コスト削減(打ち上げ費用の低価格化)や打ち上げ頻度などの運用面にもこだわったにーズオリエンティットなロケットなのだ。

以前よりも複雑化してきた衛星データビジネス!!

最近、筆者に多くの問い合わせをいただくのが衛星データビジネスについてである。衛星データビジネスに多くの企業が興味をいただいていることがわかるだろう。
従来のOld Spaceから続く衛星データビジネスは、光学衛星のマルチスペクトル画像(カラー画像)やSAR衛星画像により、物体の識別や、物体の時系列変化の確認を主な目的としていた。そのため、災害発生箇所の特定、状況把握、第三者の行動の概要把握に利用されてきた。また、光学衛星から赤外線領域などの特定波長の画像を活用して、農作物の生育状況の把握や地表面の資源探査、地表面・海面などの温度などを把握に利用されてきた。

しかし、現在のNew Spaceでは、Old Spaceから見られる衛星データビジネスとは異なるものが大多数だ。その背景には、ビッグデータ解析、人工知能AIの技術がある。例えば、数百億枚等膨大な衛星画像を、AIを活用することで、統計的なデータに基づき、様々なインサイト(付加価値のある情報)を創出し、販売しているのだ。そのため、従来ではなかった金融分野での利活用が出始めている。
 
では、近年の衛星データビジネスは何が難しいのだろうか。一つは、AI技術の活用の難しさがある。多くの企業がこの分野への参入を希望しているが、AIの知見がなく、また様々な事情によりAI企業と連携できずにいるのだ。そのほかにも、インサイトを生み出すことができないという理由もあるのだ。


画像:衛星データビジネスの課題

宇宙旅行の実現はもう近い?! しかし日本としてビジネスの難しさは別にある?

釈迦に説法だが、「宇宙へ行けるのは、選ばれし優秀な宇宙飛行士だけ」、そんな時代が続いた。今では、本当にお金を有している超一流富裕層のみが、様々な訓練を経て個人旅行として宇宙へと行くことができる世の中となっている。では、これを宇宙旅行が実現した、と言って良いだろうか。筆者は、少なくとも言えないのだ。
「宇宙旅行の実現」とは、現在多くの人々が海外へと行けるのと同じくらいの手軽さで行けること、と定義したい。

宇宙旅行には、高度100km以上として定義される宇宙空間に数分間旅行できるサブオービタル旅行、宇宙ホテルなどに滞在する旅行、月などの惑星を周回した後に地球に戻る旅行などが挙げられるだろう。今、実現に近いのは、サブオービタル旅行と宇宙ホテル旅行だ!しかし、多くの人々へ普及させるためには、まだ価格帯が高い。価格帯は、ニーズの増加や技術革新などで低下するのは時間の問題と考えられる。

しかし、それ以外にも難しさが別にあると筆者は考えている。それは、日本としての有人宇宙旅行の考え方だ。実は、日本として日本製のロケットで人を宇宙へと輸送した経験、実績がないのだ。理由はなんだろうか。なぜだろうか。日本の宇宙飛行士は全て、米国もしくはロシアのロケットで輸送されているのだ。そうなると、日本の有人宇宙旅行は、どの企業が日本初として実施するのだろうか。国内外のお客さんはどう思うだろうか。どうも、日本と海外の有人宇宙旅行の考え方について相当の相違がありそうだ。

アイデア豊富な軌道上衛星ビジネス。しかし、その分参入障壁が高い!?

従来より、概して衛星は、リモートセンシング衛星、放送・通信衛星、測位衛星など分類することができた。しかし、近年は、上記には該当しない衛星が出始めたのだ。例えば、デブリ除去衛星、流れ星衛星、広告衛星、燃料再充填衛星などだ。これらを軌道上衛星ビジネスと定義する。
 
では、この分野でのビジネスに関する困難さとはなんだろうか。それは、斬新なアイデアの創出が不可欠であることだ。従来のOld Spaceの人材では、このような斬新な発想はなかなか出にくいだろう。一方で、宇宙ビジネスを全く知らない人材では、アイデアの斬新さの創出に強みはあるが、フィージビリティーの観点が欠如しているケースが多い。つまり、アイデア豊富な“特定の人材”にしか創出できないと言っても過言ではないのだ。
 
また、実際にこのアイデアを実現するに、相当の技術力が必要となることも困難さに拍車をかけているのだ。実際に地球上で業務用、民生用としての技術実現はあったとしても、宇宙空間で実現するとなると話は別なのだ。

惑星資源探査ビジネス、惑星移住ビジネスは、まだまだ先?!

惑星資源探査ビジネス、惑星移住ビジネスは、一緒に考えるべき視点があるものと筆者は考え始めている。「なぜ惑星資源探査を必要とするのか」に対しては、その惑星への移住に必要な資源、エネルギー資源などを得るためだ。ほかにも、遠くの惑星への移住に必要となる燃料補給資源を中継地点の惑星で得るためだ。

この惑星資源探査ビジネス、惑星移住ビジネスは、実際どこまで進捗しているだろうか?この実現の難しさは、まず予算があげられるだろう。おそらく政府予算クラスの額が必要であるのは自明であろう。

そして、それらのビジネスを実現するためには、従来に見られるような規模感のシステムではなく、相当大規模で複雑なシステム開発が必要になるのだ。そのため、多数の企業との連携が必要不可欠であり、資本提携、技術提携などの様々な連携が必要になるケースもあるだろう。そのため、相当な長期的な視点で捉える必要があると考えている。


図表 惑星資源探査、惑星移住ビジネスの課題