宇宙ビジネスプレイヤー名鑑
これまでに、宇宙ビジネスの未来像について2回にわたり述べてきた。ロケット、衛星製造ビジネス、衛星データビジネス、宇宙旅行、軌道上衛星ビジネス、惑星資源探査、惑星移住の各分野で様々なプレイヤーが挑戦を始めている。
戦国時代のような宇宙ビジネス業界
日々のニュースを見て、初めて知るベンチャー企業は多い。そのような中でも現在、ロケットビジネスにおいてすぐ脳裏に浮かぶのは、やはりSpaceXだろう。打ち上げ数も打ち上げ費用も他の企業よりも先を行っている。
しかし現在の宇宙ビジネスは、群雄割拠な印象だ。ある時期はリーダーとして活躍できている企業もリーダーの座から陥落することもありうるのではないか。
もちろん、どんな分野でも同様のことが言えるが、特に宇宙ビジネスは未来がまだ不確定であり、斬新なアイデアで全く別世界を創造することができる。そしてネガティブな言い方をすれば、事業リスクが高い分野であるため、大きな失敗が致命傷になりかねないのだ。
話をもとに戻して、これらの未来像を創造しようとしているのは、どの企業なのか、誰なのか、そこにフォーカスして今回は述べていきたい。
世界のGAFAの取り組み
ビジネスニュース、多くの書籍でもGAFAというワードを見ることが多い。GAFAとはGoogle、Amazon、Facebook、AppleのITジャイアント4社の頭文字から由来している。もともとIT企業として成功している企業だが、彼らは宇宙ビジネスにも参入し確固たる地位を築こうとしている。
買収や出資という形で宇宙ビジネスに参入している印象が強い。例えば、2014年に買収したTitan Aerospaceが上げられるだろう。他にも2014年に衛星データ企業Skybox Imaging(のちにTerra Bellaに改名)を買収したが、Planet Labsに売却している。
他には、Google Earthが挙げられるだろう。世界全土を衛星画像で満たしたものだ。衛星画像を分析できるクラウドベースのプラットフォームGoogle Earth Engineも取り組みの一つだ。
Amazon
AWSが衛星データクラウドの主流で、Googleのクラウドと2強だ。AWS Ground Stationというサービスもある。衛星の地上局でできることと同じことを実現できるのだ。その他にも、3,000機以上の通信衛星を打ち上げ大規模コンステレーションによるグローバルブロードバンド環境の提供を計画している。
もちろんAmazonの元創業者のJeff BezosのBlue Originも含めるとすれば、New Shepardによる宇宙旅行ビジネス、超大型ロケットのNew Glennも挙げられるだろう。
宇宙ビジネスの取り組みというイメージはないだろう。以前、Space XやOnewebと競合する形で、衛星の大規模コンステレーションによるグローバルブロードバンド環境の提供を計画していたが資金面で断念。その後、アフリカの静止軌道にAMOS-6という通信衛星を配備した。
2019年には、Facebookの子会社であるPointViewtechという米国のベンチャー企業がAthenaという衛星により過去に計画していたプロジェクトを復活しようという動きもあるようだ。
Apple
2019年に宇宙航空分野の専門家を引き抜き、秘密の組織を組成し、衛星通信分野の技術開発に着手したという報道があるが、詳細は不明だ。
ITジャイアントは、なぜ宇宙を目指すのか
なぜこのような ITジャイアントは宇宙を目指すのだろうか。今やGAFAは莫大な資金を手にし、できない事業はないのではないかと言われるくらいだ。そして、そのような強力な力をも持ったGAFAは、政府までが様々な規制に乗り出している。そう、GAFAはもう”小国家”と言っても過言ではないのだ。
一方、宇宙ビジネスは今もなお、事業リスクも高く、コスト高な分野だ。ある企業が参入を検討したとしても、資金不足と事業リスクに耐えられず、そう簡単には意思決定ができないのだ。
つまりこの分野は、GAFAにとって有利なフィールドなのだ。すでに参入障壁ができているからだ。莫大な資金と莫大な経営力を持ったGAFAは、他の企業が実施できないことをどんどん計画し、先行者利益を得ようとしているのだ。
世界も認める日本のリーダー
日本でも素晴らしいリーダーが多く存在する。今回は特に手腕がある3名を紹介したい。
インタステラテクノロジズ創業者 堀江貴文 氏
ライブドアを大きくした手腕と日本を驚かす数多くの実績は、おそらく実業家として日本の先駆者ではないだろうか。
インタステラテクノロジズは、現在MOMOという観測用のロケットの打ち上げを手掛けているが、今後はこのMOMOの実績を小型衛星用ロケットZEROに活かす予定だ。
ispace 袴田武史 氏
日本でも最も資金調達額が大きいベンチャー企業としても有名だ。
彼は”月”を目指している。”月”と言ってもただ月へ行くだけではない。月に存在するだろう水からエネルギーを確保し、生活圏、経済圏を創造しようとしている広大なプロジェクトを計画している。
このような夢のある計画を実現するためのテクノロジーを開発しているだけでなく、メディアとうまく連携した戦略も実に巧妙だ。
アストロスケール 岡田光信 氏
もう一人、紹介しなければならないのは、アストロスケールの岡田光信氏だろう。彼はスペースデブリを除去する衛星を開発し、それをビジネスにするというアイデアを全世界に発信したスマートな経営者だ。
筆者が驚くのは、Space XやOnewebなどの衛星大規模コンステレーションで、このスペースデブリ除去ビジネスが必要不可欠になるのではないかと未来を予想していたのではないかと思うことだ。
世界の老舗企業とベンチャー企業の違いとは?
これまで紹介してきたプレイヤーは、世界の宇宙ビジネスの老舗企業とどこが違うのだろうか。
マーケットの違い
正直なところ、日々の宇宙ビジネスのニュースは、ベンチャー企業の取り組みばかりだ。そのようなニュースを見ていると、老舗企業の勢いがなく潰れないだろうか。そんな心配をする読者も多いのではないだろうか。
筆者としては潰れることはないと考える。もちろん100%潰れないとは言い切れないのだが、老舗企業は以前より政府からの宇宙ビジネスを受託してきた。その政府事業は、大型の衛星でありそれを宇宙空間へと輸送する大型ロケット、そして、国際宇宙ステーションなどの整備や保守などが挙げられる。この分野は、老舗企業しかできていないと言っても過言ではない。
例外があるとすれば、SpaceXが上げられるのではないだろうか。Space Xはすでにベンチャー企業とは言えないが、老舗企業も競合となっているのだ。政府事業が要求する事項を満たせるのは老舗企業なのだ。実は、ベンチャー企業の多くは、この要求事項を満たすところまではまだ至っていないことが多いのだ。
このように、老舗企業とベンチャー企業は、戦う領域が異なっているのだ。例えばロケットビジネスの中でも、違うマーケットやドメインでそれぞれ活動をしている。老舗企業の活動がニュースなどにあまりならないだけで、お互いに重要な役割を担っている。この違いがいわゆる「Old Space」と「New Space」の違いとも言える。
老舗企業が NewSpace に参入しない理由
老舗企業が、政府からの要求事項を満たせるほどの技術力や経営力があるのであれば、なぜベンチャー企業が参入しているNew Spaceの分野へと参入しないのだろうか。
その理由は、リスクテイクやメンタルの違い、意思決定の違い、人材の違いなどに帰着することが多い。老舗企業は、政府からの事業を受託する機会が大部分だ。そのため、自分たちから自ら新しい領域へと参入しようとする発想やマインドがない。そのため、自社だけでリスクテイクする気概もほぼないと言っても過言ではない。
まとめ
近い将来、人材が流動し、ベンチャー企業が宇宙品質を低コストで実現する時代が到来するだろう。そのとき、老舗企業もベンチャー企業も“融合”する日が来る気がしている。そんな日を待っている。