宇宙ビジネスの今と未来 〜ロケット、衛星製造、衛星データの未来予想〜

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宇宙ビジネスの今と未来 〜ロケット、衛星製造、衛星データの未来予想〜

宇宙ビジネスの今と未来 〜なぜ宇宙ビジネスの未来予想は難しいのか〜

「宇宙ビジネスの未来は、どのようなものになるのか。」そんな疑問を抱いている読者も多いことだろう。しかし、宇宙ビジネスの未来は、いつまでに何ができるという“具体像”を語ることは難しい。その理由は一言で言い難いが、情報が断片的でありロジカルなストーリーを作ることができないからだ。

例えば、世界のあるプレイヤーが「20xx年に〇〇を開始」という将来のビジネス計画を発信したとしよう。しかし、この計画は下記のような様々な疑問点、課題点が頭に思い浮かぶのである。Old Spaceの時代を駆け抜けてきた企業、人材は特にそうだろう。

  • 現時点ではどう考えても1社では実現不可能であり多くのプレイヤーを巻き込む必要があるのではないか
  • この計画を20xx年までに開始するためには、事前に必要不可欠な技術開発などのスケジュールはミートするのか
  • 国内、国際的な法制度について政府等を交えて議論し、整備する必要があるのではないか
  • この計画に必要となる予算はどうするのか
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    Old SpaceとNew Spaceの違い

    Old Spaceの時代に、政府、国の宇宙機関が莫大な予算をかけて実施してきたこと、もしくは未実施なことを、まだ宇宙ビジネスの実績のない民間企業がチャレンジしようとしている。それがNew Spaceなのだ。「第二時世界大戦後、約60~70年にも渡って培われた宇宙品質、ノウハウなどは、そう簡単には実現できない。」そう考えるOld Spaceの企業や人材も少なくない。

    しかし、2020年になった今、以前のOld Spaceと言われる時代と比較して、New Spaceのプロジェクトのスピードは格段に早くなり、どんどん新しいことを取り入れ始めている。そして驚くべきことに、Old Spaceにおいて活躍してきた企業や人材が、一見フィージビリティーに欠けると思われることでさえもNew Spaceの主要プレイヤーは実現しているのだ。

    このように、宇宙ビジネスの実績があるOld Spaceとこれから宇宙ビジネスの実績を作ろうとするNew Spaceにおいて、プレイヤーの考え方、価値観、進め方などに相違点があるのも未来を予想することを難しくしている理由の一つになっているのは否定できない。

    各分野ごとの未来予想

    上記を踏まえて、宇宙ビジネスの未来がどうなるのかを、具体的なスケジュール感ではなく、ラフなスケジュールと未来像を可能な範囲で語ってみようと思う。ただし、あくまでも想定であり、必ずしも正しい解ではないことにご理解をいただきたい。

     

    ロケットビジネスの今と未来 〜多様化する輸送手法とさらに進む価格破壊〜

    打ち上がるロケット

    「主に政府系の衛星を宇宙空間へと輸送する。これがOld Spaceの時代のロケットビジネスだ。」と言っても大きく間違っていない。これは今もなお継続している重要なミッションだ。

    New Spaceの時代はどうだろう。ロケットビジネスは、Old Spaceの時代と比べて何が変化したのだろうか。そして将来はどうなるのだろうか。

    変化したことは、New Spaceの時代においては輸送される衛星などのペイロード側のニーズが多様化したことが挙げられるだろう。打上げ業者は下記のようなニーズにミートするロケットを作り、ロンチサービスを行う必要がある。

  • 衛星の小型化がビジネスの主流
  • 衛星コンステレーションを構成するため一度の打ち上げに多数の衛星打ち上げたい
  • 所望の軌道に輸送して欲しいこと
  • 打ち上げ価格を安くして欲しい
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    New Space時代における小型、大型衛星の役割

    Old Spaceの時代は、大型ロケットは大型衛星を輸送することを主なミッションと位置付け、小型衛星はピギーバックという“おまけ”的な位置付けで搭載され打ち上げられていたため、所望の軌道へ投入することができないというのが一般的だった。

    しかし、小型衛星が宇宙ビジネスの主流となりつつある今、小型ロケット以外に大型ロケットでも所望の軌道に投入できるようなサービスを開始している企業も出てきた。さらに、大型ロケットに小型衛星を数十機搭載して打ち上げる方法も確立してきている。SpaceXのStarLink計画で、Falcon9から分離される衛星60機の動画を見ると興味深い。ロシアのStartRocketのアニメーション動画でロケットから衛星が分離されていく様子は、見ていて驚くべき技術が隠されていると感じる。他にも、OrbexのPrimeロケットは、衛星分離時に衝撃ゼロという驚きの発表をしている。

    SpaceXなどの第1段部分を打ち上げ後に垂直着陸手法で帰還させ再利用する方法、Reaction Engineなどの再利用型輸送機の利用などが代表的なコスト削減策だろう。さらには、SpinLauchは、カタパルト方式の採用や全く新しい非公開の打ち上げ方式も開発しているという。もちろんロケットベンチャーから3Dプリンタによる製造というキーワードもよく耳にする。

    一方で、超大型ロケットのニーズもある。SpaceXのBFR(Star Ship)やBlue OriginのNew Glennが該当する。未来の宇宙ビジネスにおいて、宇宙旅行、惑星探査、惑星移住において、整備するためのインフラ、人は、大型のロケットとなることは必須であるからだ。

    ロケットビジネスの未来予想

    未来において、ロケットビジネスは、どのようになるだろうか。あくまで予想だが、大型ロケットでも所望軌道に小型衛星を運ぶことが可能となると、小型ロケットの存在意義は希薄になってくる可能性はあるだろう。

    そして、大型ロケットの限られたフェアリングのスペースにどれだけ多くのペイロードをうまく収納できるのか、そのような技術を持ちビジネスに参画してくる企業も出てくる可能性がある。さらに、衛星に対して機械環境面で優しいロケットが出てくることも予想される。つまりロケットの轟音、振動、衝撃が限りなく低減されるものだ。そして様々な輸送方式によって実現されるだろう。もしこのようなロケットが出てくると衛星設計に革命が起きるだろう。


    ロケットビジネスの未来像

     

    衛星製造ビジネスの今と未来 〜ロケットの革新で起きる衛星製造革命〜

    Old Spaceの時代から衛星は、リモートセンシング衛星、測位衛星、通信・放送衛星、惑星探査機に大きく分類されてきた。これらは、主に政府が手がける国家プロジェクトとして技術開発し整備されてきた。もちろん、通信・放送衛星はすでに衛星通信事業者が自ら衛星を調達しビジネスしてきている点も忘れてはいけない。

    しかし、今や上記に該当しない斬新な衛星が登場してきている。例えば、アストロスケールやEUチームなどが手がけるスペースデブリを除去する衛星、ALEの流れ星を作る衛星、 StartRocketの宇宙で広告を作る衛星、燃料枯渇した大型衛星に燃料を注入する衛星などだ。これらは、実証段階に入っている企業も多く、サービス開始までそれほど時間は要しないだろう。もちろんすでにサービスを開始している企業も忘れてはならない。

    QCD(Quality Cost Delivery)の最適化

    Old Spaceの衛星の多くは、大型衛星に分類され、ミッションにも依存するが価格の相場としておおよそ100億円〜300億円と言われている。これは、国家プロジェクトとして、各国の宇宙機関などが定めた高い品質での製造を要求している点もこの価格になった一つの理由だ。

    しかしNew Spaceの時代は、民間主導のビジネスでもあり、小型衛星が主流となりつつある。今現在は、ミッションや大きさにも依存するが、小型衛星は、おおよそ数十億円以下という相場だろう。

    New Spaceにおける世界の衛星製造ビジネスのニーズは、可能な限り廉価で、宇宙空間に耐えうる適度な品質を有する衛星を作ることだ。このために、世界のプレイヤーは、以下の点を試行錯誤していると考えられる。

  • 民生部品・部材の効果的の活用による適度な品質の確保
  • 大量生産化によるライン構築によるコスト削減
  • 可能な限り短縮化される納期
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    つまり、QCD(Quality Cost Delivery)の最適化だ。

    衛星製造の未来予想

    未来において、衛星製造はどのようになっていくだろうか。近い将来、宇宙空間に耐えうる適度な品質を有する民生部品・部材の効果的な活用方法が確立されるだろう。そして、現在までに計画されている大規模な衛星コンステレーションの計画を満たすだけの衛星数が決まれば、そこまで一気に衛星の価格は低下することが予想される。そして、衛星製造によるサプライチェーンをもっと最適化する企業も出てくるだろう。

    前節のロケットビジネスの今と未来でも述べたが、もし多様化する輸送手法などにより、優しい轟音、振動、衝撃が限りなく低減されるロケットが開発されたとすると衛星製造に革命が起きることは間違いないと考えられる

    まず、衛星の形が大幅に変わるだろう。機械環境的に耐えうる”剛”となる設計にする必要性がなくなり“柔”としての設計要素を取り込むこともできるだろう。そうなると現時点は、不可能であったミッションも可能なり、また、全く新しいミッションが創出される可能性があり、ますます衛星が多様化されるだろう。これが将来予想される衛星の未来像だと考えている。

     

    衛星データビジネスの今と未来 〜衛星データからインサイトとさらにその先の情報へ〜

    衛星データ

    衛星データビジネスといえば、Old Spaceの時代からリモートセンシング衛星で撮像された衛星画像を政府が安全保障上必要な情報として活用するという側面が主流だった。今現在でも衛星データビジネスの主な側面となっているのは否定できない。よくアンカーテナンシーと表現されこの用語を耳にしたことがある読者も多いと思う。

    また、リモートセンシング画像の他の側面としては、農業、林業、気象、地図作成、災害状況把握などに活用されているのはご存知だろう。例えば、農業では、赤外線の領域を映し出すリモートセンシング画像から農作物の生育分布を分析したり、気象では、気象衛星ひまわりに代表される雲の状況や気圧、気温などの過去の情報から天気を予想したりするものである。

    ビッグデータの一部である衛星データ

    現在の衛星データビジネスの主流は、リモートセンシング画像以外にも、測位衛星による測位情報、通信衛星からのテキスト、音声、動画などの情報、そして、地上のIoT、オープンデータなど様々な情報を活用するのが一般的になってきている。さらには、これらの衛星データを含む大量のデータ(ビッグデータ)に対して人工知能AIなどを活用することで、全く新しい情報を得ることが目的なのだ。この全く新しい情報のことをインサイトと呼ぶ。

    例えば、SpaceKnowは中国の工場地帯などを、過去何億枚という膨大な数のリモートセンシング画像をAIで解析することで中国の正確な経済指標を作り、投資家、金融機関向けに販売している。

    また、Facebookは、未開発な土地にどのような街づくりが適しているのかという情報(インサイト)を得るために、世界の各所の過去の大量のリモートセンシング画像から街の発展の様子についてAIを用いて分析し、ディベロッパーなどに販売、コンサルティングを行っている。

    衛星データの課題

    しかし、衛星データビジネスにはまだ課題もある。例えばリモートセンシング画像の空間分解能(解像度)がもっと高いものが欲しい、同じ地点を何回も見えるように時間的な頻度(時間分解能)を上げて欲しい、というニーズがあるのも確かだ。

    さらに、まだ衛星画像が高額であることも課題としてある。日本を始め主要国では、オープンフリー政策を始めているが、高い空間分解能のリモートセンシング画像ほど高額なのだ。また、衛星データ全般に関する解析、操作などが複雑であるためリテラシーが浸透しておらず、気軽に活用できるという環境づくりもこれからだ。

    最も重要なのは、インサイトを見つけられるかどうか、そしてそのインサイトを創出するために何をすべきか、どの情報を活用すれば良いのかという点もビジネス性に大きく関わってくる。

    衛星データビジネスの未来予想

    では、将来の衛星データビジネスはどのようになっていくだろうか。前節の衛星製造ビジネスの今と未来でも述べたが、これからの空間分解能や時間分解能の課題が解決されれば、さらに衛星データビジネスは加速するだろう。SpaceXやOneWeb、Amazonなどの通信衛星の大規模コンステレーションに負けず劣らず、リモートセンシング 分野の大規模コンステレーションが形成されていく時代がくると考えられる。現在でもPlanetなどはおおよそ100機、Black Sky、ICYEなどでおおよそ50〜60機の衛星が打ち上げられる。これにより時間分解能もより高くなり、リアルタイム性のあるビジネスへと活用されるだろう。

    最も重要なインサイトについてであるが、ロケット革新、衛星設計の革命が仮に起きたとすると、衛星ミッションが多様化される。そうなるとまた新しい衛星データが創出されることは間違いない。さらにこれらの情報を活用し、AIやビックデータ分析を得意とする多くのプレイヤーが参画しさらなる斬新なインサイトを創出してくれるだろう。さらには、インサイトからさらに一歩先の情報まで発掘し、様々な予測データを提供してくれる時代が到来するだろう


    衛星ビジネスの未来像

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