ブライデンスタイン長官来日とアルテミス計画、月有人探査を巡る動き

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ブライデンスタイン長官来日とアルテミス計画、月有人探査を巡る動き

2019年9月24日、NASAのジム・ブライデンスタイン長官が日本へ初めて来日、JAXAの山川宏理事長と会談した。ブライデンスタイン長官、山川理事長は月探査に向けた将来の両機関の協力について議論を行い、JAXAとNASAとで月探査を視野に連携すること、「最終的な有人火星探査に向けて、有人月面活動を推進するために、NASA と JAXA の間で科学的技術的な協力を拡大していく意向を表明した。」と発表した。

NASAは、2024年に有人月探査を再開する方向で準備を進めており、「アルテミス」計画と呼ばれる計画では、女性を含む宇宙飛行士による月面の有人探査、民間や国際パートナーの参加を打ち出している。

同日、東京文京区の東京大学で講演したブライデンスタイン長官は、日米、民間協力によって実現する月面探査の将来像をイメージさせる言葉を次々と打ち出した。キーワードは「サステナビリティ」。再利用ロケットというハードウェアから、民間パートナーまで巻き込むことで宇宙探査が持続的になるという。

ブライデンスタイン長官は「大学がサイエンスのためにエンジニア人材を求める場合、宇宙機関がそうした人材の仲介ができる。大学から宇宙探査に参加することで、学生が宇宙機の開発などの実務を経験し、卒業後は宇宙機関や航空宇宙企業で働くことができる。一種のエコシステムを形成している」と述べ、東京大学という場に合わせて大学からの参加要請も打ち出した。

宇宙探査へ民間の参入を促す発言の中では、「トヨタ・アストロノーツ」「ボーイング・アストロノーツ」という言葉も使われた。民間企業はロケットや宇宙船といった機器の開発を担うコントラクターだけではなく、探査を担う主体的なパートナーであることを示していると考えられる。パネルディスカッションに登壇した山崎直子宇宙飛行士に向かって「(女性宇宙飛行士が月面探査を行う)アルテミス計画にぜひ参加を」と呼びかける場面もあり、日本の宇宙飛行士がNASAの国際パートナーとして月面探査に参加する可能性を示唆した。


ブライデンスタイン長官とパネリスト参加の若田光一理事、中須賀真一教授、山崎直子宇宙飛行士。撮影:小林伸

時間を延長しても熱心に会場からの質問に答え、講演の締めくくりに自らスマートフォンを取り出してパネリストの若田光一理事、中須賀真一教授、山崎直子宇宙飛行士に加えて会場の学生らと共に自撮りした写真をTwitterに投稿したブライデンスタイン長官。熱心な呼びかけは宇宙探査に関心を持つ学生らに響いたようだ。

一方で、月・火星の有人探査にパートナーを得たいNASAの事情という側面もある。アルテミス計画の予算に対する米議会の姿勢は上院と下院で異なり、予算がNASAの要求通りつくかどうか駆け引きが続いている。

NASAの2020年度の予算要求は226億ドルで、この中にはアルテミス計画に関する追加要求である16億ドルが含まれている。この16億ドルには、これまで開発が続いてきた大型ロケットのSLS、月軌道宇宙ステーションのゲートウェイ、民間による月着陸機開発支援CLPS計画などに加え、ゲートウェイから月面に宇宙飛行士を輸送する有人着陸システム(HLS)の10億ドルが含まれている。


有人着陸システムHLSの構想。Credit: NASA

上院の小委員会が認めたHLS関連予算は7億4400万ドルで、月面に宇宙飛行士を降ろすシステムの開発という重要な部分に影響を与える可能性がある。上院歳出委員会が認めたNASA予算は227億5000万ドルでNASA要求の226億ドルよりも大きいが、宇宙科学やSTEM(理系教育)などの予算が含まれ、アルテミス関連予算を重視したNASAの要求とは中身が異なる。

また、月探査の準備を行うためには安定したISSへの輸送手段確保が欠かせない。とくに宇宙飛行士が安定して滞在し、各種実験を予定通り実施する必要がある。ところが、米民間企業による有人宇宙船の開発は遅れが目立つ。9月末に独自の宇宙船「スターシップ」の開発機を発表したスペースXに対し、前日にブライデンスタイン長官はTwitterでコマーシャルクルー(民間有人宇宙船)の開発遅れを指摘し、「アメリカの国民は税金を投じた宇宙船開発が実現することを望んでいる」と投稿し、開発リソースをクルードラゴン宇宙船に振り向けるよう求めた。

その後、スペースXのイーロン・マスクCEOから「スターシップの開発リソースはスペースXの5パーセント程度」との応答があり、長官も決して咎めたわけではないと「和解」があったようだ。とはいえ、各方面の尻を叩いてまわりたい、というのが長官の本音とも受け取れる。JAXAの山川理事長との共同発表にしても、宇宙機関同士で月探査を進める姿勢を見せて既成事実化したい方向性があるように思われる。

JAXAが月探査を渇望していることは間違いない。しかし2021年打ち上げの小型着陸探査機SLIM、インドと共同の月極域探査、欧州、カナダと共同の着陸探査ヘラクレス計画、トヨタと共同開発の月面ローバーによる月面滞在探査と連続している計画の中で、宇宙基本計画の工程表に記載されているのはSLIMのみだ。平成30年度の工程表では「米国が構想する月近傍の有人拠点(Gateway)への参画について、我が国の科学探査への貢献や地球低軌道における有人宇宙活動との関係にも留意しつつ、米国、欧州等も含めた国際調整や具体的な技術検討・技術実証を主体的に進める。」「 国際協力による月への着陸探査活動の実施等についても国際調整や具体的な技術検討を行う。」となっている状態だ。令和1年の工程表改定でどのように記載されるか注目される。

ブライデンスタイン長官が議会を説得しなければならないのと同様に、日本もNASA長官という外圧頼みでなく探査を成功させる説得をする必要がある。

取材・文/秋山文野

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