仏アリアンスペース、7月のVEGA打上げ失敗調査報告を発表。日本のレーダー地球観測衛星への影響は?
2019年9月4日、仏アリアンスペースは、7月11日に発生したVEGAロケット15号機の打上げ失敗に関する調査と今後の打上げ予定について発表した。VEGA 16号機以降の打上げ再開は2020年第1四半期以降を目指すという。2020年には日本の合成開口レーダ(SAR)衛星ベンチャー企業Synspective(シンスペクティブ)がVEGAロケット初号機の打上げを予定しており、打上げ時期への影響は避けられないとみられる。
日本時間7月11日、仏アリアンスペースのVEGA15号機(VEGA VV15)はアラブ首長国連邦(UAE)の地球観測衛星FalconEye1を搭載し、高度611キロメートルの太陽同期軌道を目指して南米のギアナ宇宙センターから日本時間午前10時53分に打上げられた。リフトオフからおよそ2分後、第2段エンジンZefiro 23(Z23:ゼフィーロ23)の着火後に不具合が生じ、打上げを中断した。打上げミッションは失敗となった。
VEGA15号機に搭載中の地球観測衛星FalconEye1は、打上げ失敗により失われた。Credit: Arianespace
VEGA(ヴェガ)ロケットは、伊AVIOが製造し、仏アリアンスペースが打上げ、運用する小型ロケット。高さ29.9メートル、第1段の直径3メートル、打上げ時質量は137トンで高度700キロメートルの円軌道へ1.5トンの打上げ能力を備えている。2012年の初打ち上げ以来、世界で需要が高まっている地球観測衛星の打上げを行ってきた。ゼフィーロ23は、固体推進剤を使用するVEGAロケットの第2段。高さ7.5メートル、直径1.9メートル、重量約26トンで、リフトオフから107秒後に点火し、高度44キロメートルから150キロメートルまでの飛行を担う。
事故後、アリアンスペース社の上級副社長と欧州宇宙機関(ESA)の監察総監が共同で院長を務める事故調査委員会が設置され、打上げ失敗の原因究明にあたっていた。調査委員会が飛行データを分析した発表によると、Z23エンジンの着火後まもなく(リフトオフから130秒850ミリ秒後)に異常が発生した。
第1段の燃焼とZ23エンジンの着火から14秒までは正常に動作していたが、130秒850ミリ秒後の異常発生によって、VEGAロケットは第2段と、第3段のZefiro 9やフェアリング、含衛星搭載部分など上部の2つに破断。安全管理手順に従って213秒660ミリ秒後にギアナ宇宙センターから飛行停止コマンドが送信された。314秒25ミリ秒後にテレメトリーデータは途絶えた。人命への影響はなかった。
調査委員会の報告では、固体推進剤を使用するZ23モーターの「前方ドーム部分で熱構造的破損が発生した」という。米宇宙メディアSPACEFLIGHT NOWの報道では、VEGAロケットを製造する伊AVIOのジュリオ・ランツォCEOは取材に対し「本来、ロケットの構造部分と推進剤の高温の燃焼ガスは完全に隔てられているが、Z23モーターの燃焼で発生した3000度近い熱が何らかの理由により誤って前方ドーム部分に到達し、損傷の原因となったと考えられる」と述べたという。
事故調査の発表により、打上げ失敗が発生した部位と事象の詳細については特定されているものの、2012年の初打ち上げから14回連続して成功していたVEGAロケットで、なぜ15号機では第2段の破損が発生したのかという点については触れられていない。事故調査委員会は、調査から判明した点をVEGAロケットの安全対策に反映するため、次回の打上げを「2020年第1四半期まで延期すべき」とした。
VEGAロケットで2019年後半に予定されていた打上げは、FalconEye1の同型衛星であるUAEのFalconEye2、VEGA初のライドシェアによる42機の衛星の同時打上げ、SSMS POCなどがある。また、2019年4月18日には、合成開口レーダ衛星を運用するスタートアップ企業シンスペクティブが、初号機StriX-αを日本の企業としては初めてVEGAロケットで打ち上げる契約を結んでいた。シンスペクティブは25機のSAR衛星による地球観測衛星コンステレーションを計画しており、アリアンスペースと将来の協力関係を目標とした戦略的パートナーシップ契約も結んでいた。
これまで、アリアンスペースによるVEGAロケットの打上げは8年間で年1~2回程度。2019年は3月の14号機、7月の15号機、9月の16号機打上げが計画されており、FalconEye2まで打上げをじっすることができれば、3~4回程度まで打上げ回数が増えることが予想されたていた。しかし事故対応によりペースアップは遅れるとみられる。シンスペクティブのStriX-αや、同じく2020年打上げが計画されていたスペインの地球観測衛星SEOSAT-Ingenioなどは2021年にずれ込む可能性もありそうだ。
また、2020年にはVEGAの強化型であるVEGA Cの初打ち上げが予定されている。VEGA Cは第1段、第2段ともに能力が向上し、第2段のZefiro 23はより大型のZefiro 40になる予定だ。タイの地球観測衛星は2021年にVEGA、またはVEGA Cによる打上げを予定していたが、こうした選択にも影響が出る可能性がある。
FalconEye、StriX-α、SEOSAT-Ingenioはどれも地球を南北方向に周回する太陽同期軌道への投入を目的としている。世界的な地球観測衛星のコンステレーション構築の動きにより、太陽同期軌道へ投入できるロケットの需要が高まっている。格安、高頻度打上げならば8月にライドシェア型の打上げプランを発表した米スペースXのFalcon 9やインドのPSLV、打上げスケジュールを確実にしたい場合はニュージーランドに射場を持つ米ロケットラボのElectronなど、他のSSO投入可能なロケットを模索する動きも加速すると考えられる。
取材・文/秋山文野