宇宙資源ビジネスで先行者利益を確保する着眼点と今後の手の打ち方

2019年5月23日に「宇宙資源ビジネスで先行者利益を確保する着眼点と今後の手の打ち方」のセミナーが開催されました。

講師の内田敦氏は、現在、株式会社三菱総合研究所の海外事業本部兼科学・安全事業本部フロンティア戦略グループの主任研究員です。セミナーは、下記の4つの視点から説明されました。

①宇宙資源ビジネスとは
②国内外の宇宙資源ビジネスをめぐる動き
③日本企業のビジネスチャンス
④フロンティアビジネス研究会の取組み

項目の要点をビジネス寄りの言葉でお伝えします。

①宇宙資源ビジネスとは

白金などのレアメタルを宇宙で探鉱し、地球に持って帰ってきて販売するビジネス構想を持っている企業も多いが、輸送コスト等を考えると現状では経済的に成立しない。

現在、最も有力視されているのは月面における水資源ビジネス。月の重力が地球の1/6であることを活かし、月面に火星や深宇宙の天体へ向けたロケットの拠点を設置して、水を水素と酸素に分解することでロケットの燃料にすることを考えている。(地産地消型)

また、ユニークな企業例として、60万個以上の小惑星の価値をデータベース化し、ランキングで表示している海外サイトもある。

②国内外の宇宙資源ビジネスをめぐる動き

米国とルクセンブルクは、既に宇宙資源開発(採掘した宇宙資源の権利)に関する法制度を制定しているので、欧米のベンチャー企業は宇宙資源ビジネスに向けた取組みを活発化している。

特に勢いのあるルクセンブルクは、宇宙資源開発のハブ国家宣言をしており、宇宙資源採掘・探査を国家主導で推進する枠組をつくっている。既に企業誘致,法整備,ファンディングなど実施済のため、多くの企業が支社を設置している。

2018年11月にルクセンブルク宇宙庁は宇宙資源利用産業の市場規模として、2018年~2045年に最大1700億ユーロに達する見込みと発表している。民間企業の動向は、大手企業(Space X社,Blue Origin社など)だけでなく、小惑星を目指すスタートアップ企業(Planetary Resources社,Deep Space Industries社など)や月を目指すスタートアップ企業(Moon Express社など)も現れている。

③日本企業のビジネスチャンス

日本企業のポテンシャルは、宇宙ステーションや地上の僻地でのプラント建設などを通じて関連する技術を保有する企業が多数ある。

世界トップレベルの月資源ビジネスを目指す株式会社ispaceの存在も大きい。現在は市場が形成途上であり、ポテンシャルを活かすためには先行者利益,日本初,未来共創の3つの考え方が必要。それは、ルールメイクへの参画による先行者利益の確保,日本企業を中心としたバリューチェーンの構築,産業界主導による官民協力体制によるビジネス展開とも言える。

2018年3月20日に日本政府は、宇宙ベンチャー育成のための新たな支援パッケージの中で今後5年間に約1000億円のリスクマネー供給を可能とする政策を発表したことも業界の追い風になる。

④フロンティアビジネス研究会の取組み

株式会社三菱総合研究所と株式会社ispaceが発起人となり、2016年にフロンティアビジネス研究会を立ち上げる。

産業界が主体となり宇宙資源ビジネスの市場創出を目指し、現在26社が加入。初期の活動目標は、月・月近傍空間での経済圏の成立可能性と認知度の向上・新規市場創造の可能性向上,日本発の宇宙資源ビジネスの創出とエコシステムの構築,人類の活動圏・経済圏の拡大としている。

まとめ

・宇宙開発は大きな変革期
 政府中心の宇宙事業に民間企業主体の事業が急増し、宇宙資源ビジネスに注 目が集まっている。
 
・世界は動いている
 宇宙資源に関する法制度が急速に整備され、米国,中国,欧州,ロシヤ,インド等が月探査プログラムをつくり、民間企業も月,火星,小惑星を目指している。
 
・求められる考え方
 日本企業のポテンシャルである先行者利益,日本発,未来共創を活かす。ツールとして、フロンティアビジネス研究会もある。