「我が国の海洋政策への地球観測衛星データの貢献」海と宇宙がどうつながっていくのか?

4月17日に地球観測データ利用ビジネスコミュニティ(BizEarth)が主催するセミナーが開催されました。宇宙ビジネスは大きな変化の時期に来ています。その中でも衛星で地上を撮る衛星データの活用がいろんな分野で盛り上がってきています。今回のセミナーは、「衛星データ」が「海」に関係する分野でどんな現状になっているのか、そして今後どうなっていくのかを知ることができます。政府、企業、研究機関の方を招いての意見交換が交わされましたのでご紹介します。

■概要
日時:平成31年4月17日(水)15 時 00 分~17 時 45 分
会場:東京都港区虎ノ門3-17-1
一般財団法人 リモート・センシング技術センター
主催:地球観測データ利用ビジネスコミュニティ(BizEarth)
後援:一般財団法人 宇宙システム開発利用推進機構, 一般社団法人 日本リモートセンシング学会

■プログラム
1.開会の挨拶 BizEarth 会長 山口 靖【15:00-15:05】

2.基調講演
「海の今を知るために」
海上保安庁 海洋情報部 海洋情報課 海洋空間情報室 室長 吉田剛様【15:05-15:35】

2.特集講演
「海流予測の現状と課題」
海洋研究開発機構 アプリケーションラボ 所長代理 宮澤泰正様【15:35-15:55】
「海洋状況把握に向けたソリューションの紹介」
スカパーJSAT 株式会社 執行役員 青木一彦様【15:55-16:15】
「AIS Solutions of Harris」
Harris Geospatial 株式会社 代表取締役 大川満二郎様【16:15-16:35】

3.パネルディスカッション【16:45-17:40】

4.閉会の挨拶
BizEarth 幹事 新井邦彦【17:40-17:45】
 
 

■開会の挨拶

開会の挨拶としてBiz BizEarthの担当者の方がセミナーの趣旨について話しました。衛星データを海に関することに利用していくことは日本にとって重要です。広い海のモニタリングできることで、防災や防衛だけでなく、民間企業の活動に貢献するなど、日本に住む人全員にプラスになる可能性があります。今回のセミナーでは、具体的な問題点や方向性などを具体的にするための実りあるものにしたいとしています。
 
 

■基調講演 「海の今を知るために」

基調講演では、海上保安庁 海洋情報部 海洋情報課 海洋空間情報室 室長 吉田剛氏が、現在の海上保安庁としての活動をベースに話しました。

■海上保安庁の海洋業務について
海上保安庁では、国や国民の安全・安心を守ることが役割です。
その一環として、衛星データなどを活用し海の地図を作って、役に立つサービス・活動を行っていくという事業をやっています。

具体的な事例として下記を上げています。
3.11のような震災や地殻変動などによって、船の航路に水中に障害物が増えてしまうと、港が使えなくなってしまいます。
その際に、ソナーで航行可能な水域の障害物を把握し、すべて除去て港を使えるようにする活動をしています。
そうした有事の際に、海中の地図などの情報が必要になるため、衛星データを重要なものとしてとらえています。

■海上保安庁における情報提供の歴史
海上保安庁では、海の利活用に有益な情報提供をしていきたいという理念から、下記のように情報提供を行ってきています。

1965年 日本海洋データセンター設置
1995年 インターネットにて提供開始
2003年 GISによる譲歩提供
2012年 海洋台帳の更改
2019年 海しる

■「海しる」
4月17日から、海洋状況表示システム「海しる」の運用開始を開始しました。
海しるは、一元的に各データをみることができるシステムで、政府機関で共有する情報と公開情報を整理していくことを目的としています。

海上保安庁は、2012年に海洋台帳を公開しました。
海洋台帳は日本周辺のローカル情報と非リアルタイム情報が掲載されたものでした。

しかし、今回運用開始した海しるは下記のデータを見ることができます
・グローバル(日本だけじゃない)
・リアルタイム(データにもよるが数時間前のものもある)

各省庁の最新データや全世界のデータなどをみることができ、主に下記のようなデータを掲載しています。

・海域名称
・地形、地質
・海象
・気象
・安全
・海事
・防災
・インフラ、エネルギー
・海洋生物、生態系
・水産
・海域利用
・海域保全
・航空写真等
・経緯度
・背景図

上記のようなデータを重ね合わせる事で、様々なことに活用していくことを目的としています。
ビジネスなどでも、発展していくためには基本的に下記の3者が必要になります。
1:技術力を磨く人
2:技術を使いやすくする人
3:利用する人の3者が必要

海上保安庁は海しるで、2を推進していければとしています。
 
 

■特集講演 「海流予測の現状と課題」

海洋研究開発機構 アプリケーションラボ 所長代理 宮澤泰正氏が、「海流予測の現状と課題」について話しました。

■海流予測の現状
海流予測の利用は、タブレット端末の普及などもかさなり利用者は増えてきています。そんな中、宇宙技術と海洋の連携を強めていかないといけないとして、2018年11月 JAXA JAMSTECーAPL共同の海流予測を開始しています。

海流予測は、海洋の観測に支えられたサービスです。波の高い低いなど、様々なデータをもとにして海流を予測することで実現しています。現状の課題としては、衛星データの高解像度化が重要な課題だとしています。現在は3km格子で提供しているが、1km格子での提供を今年中に目指すとしています。これは、格子があらいと現場で使うには誤差が大きくなりすぎてしまうためとのことです。

■観測技術にの自動的化ついて
海流予測では、圧倒的に観測データの量が足りないという問題点も指摘しています。人間が実際に現地に行ってデータを取っていくことには限界があるとし、下記のような自動的にデータを撮れる仕組みを作ることが大事です。

船の動き→ 海流と海上風(1Mくらいの速度だと浮かんでるので海流が分かる)
鳥の加速度 →波浪(8Mくらいの速度だと飛んでるので海上風がわかる)

上記はGPSセンサーのみで自動的に観測できる。

■観測技術のあらたな工法
上記の自動化も含めて、今後多くの正確なデータを集めていくために、下記が必要だとしています。

・行動の自立(センサーが自立する)
セイルドローン
ウェーブグライダー

・エネルギーの自立(プラットフォームを小さくして、海洋の中で自律的に発電する)
深海の海流を利用する(海流発電機)
海流の温度差をつかう(温度差発電)
魚の尾ひれから発電(生体振動発電)

・全球高密度通信網
リアルタイムでやれるようにしないといけない。
小型衛星を多く飛ばし、コンステレーションで実現。

・フィードバックループ
自動的にデータを撮れる仕組みを作り、AIによる機械学習を活用してより高度にしていくことが必要
 
 

■特集講演「海洋状況把握に向けたソリューションの紹介」

スカパーJSAT株式会社 八木橋氏が「海洋状況把握に向けたソリューションの紹介」として自社の事業内容について話しました。メディアと宇宙の会社として、宇宙ビジネスに関わるお客さまに世界中の事業者と提携しています。

・ビックデータ確保 → 衛星データ分析 → 活用

■主な提携先企業
Planet社
Orbital Insight
KSAT社
HawkEye360社

海洋についてでは、海洋監視アプリケーションや不審船の監視など様々なソリューションを提供しています。

■「AIS Solutions of Harris」

Harris Geospatial株式会社 代表取締役 大川満二郎氏が「AIS Solutions of Harris」のサービスについて話しました。

Harrisはアメリカ・フロリダ州にある会社で、衛星のセンサーやGPS衛星の搭載システムなどを提供しています。Harris Geospatial株式会社は、その子会社の日本法人です。基本的にはリモートセンシングがメインの事業をしています。海洋に限ってでは、下記のようなソリューションを提供しています。
海洋保護区の持続的モニタリング
継続的な船舶の識別
 
 

■パネルディスカッション

Q:現在の海洋政策の課題

A:吉田氏
みんなに利用してもらうための役割としては、データがどのように利用されるのかを把握して、利用する人にとってよりよいサービスにしていくこと。
具体的な利用例などを利用者に聞いて改善していくことが重要。

A:宮澤氏
国民の海に関する関心が減っているのでは。
海にかこまれている国だが、海がどんな状態になっているか関心が低い。
今海がどうなっていて、何が問題なのかを広めていくことが重要。
重要性が浸透しないと、新しい政策なども予算が下りない。
国民生活にどう関係していくのかを伝えるのが大事。

A:八木橋氏
お客さまの声であがってくるニーズを紹介。
政府系 → 近隣諸国の軍事的な側面
民間 → 燃費改善 不審船などとの衝突

課題を解決するには、データ量が不足している。
上記ニーズに対して、船上では通信遅い、コストが高いといった面を改善していくのが自社としての課題。

A:大川氏
研究側としては技術の向上が課題(リモセンでは雲と雪をみわけるのもまだ難しいといった事など、できることを増やす)
民間では、災害の時でないととくに海について目を向けることもない。
海洋国家なので貿易と防災でも海は重要。
業界のサービスとしては、レトルトパックくらいのところまではきている。
しかし、ご飯にかけてだしてあげるくらいまでが実現してこないと普及していくのは難しいかも。

Q:衛星リモセンにどのようなことを期待するか

A:吉田氏
リモセン技術はシーズ。
ニーズに対してシーズをどう使うかが大事なので、どういうニーズを意識して、どういうリモセンを開発するかを考えるべき。

A:宮澤氏
日本として自前の衛星を打ち上げ続けないといけない。
独自の衛星技術を維持していかないと、他国から大事な情報をもらえないこともある。

A:八木橋氏
使う側としてはおおきく3つ。
1:コスト(海のデータを利用しようとすると広い範囲になり値段も高い。かつそこから使えるようにしていくのは大変な解析技術もいる)
2:リアルタイム性(海や活動する船等は変化し続けるのでリアルタイムじゃないと厳しい)
3:継続性(3年や1年で使用できなくなるデータでは使いにくい)

A:大川氏
海に関してはリモセンデータが足りない、経常的に時系列的にみれるようにしたい。
もっと海洋国家としては重要視して行くべき。

Q:ブレークスルーするためには何が必要か
A:大川氏
日本の状況だとデータの継続性。
衛星が変わったりしてデータの継続性がなくなると、いろいろ課題解決もやりにくい。

A:八木橋氏
経済性が課題。
こんなことがこのくらいの値段でできるんだというのが分かると、注目が集まり循環が生まれるのでは。

A:宮澤氏
高解像度で高頻度のデータが取得できることが必須。

A:吉田氏
良いデータをとっていると世界からも注目される。継続してやりつづけることが大事で、日本として最先端を継続して走っていくことが必要。国内的にも、みんなに興味を持ってもらい産業が発展していくには最先端であることが必要。

Q:衛星データやそのほかの技術を組み合わせていくにはどんな要素が重要か

A:吉田氏
ニーズをとらえて最先端ですと言えるマーケティング力が重要。

A:宮澤氏
データの精度がないと相手にされないので、データの精度が重要。確実なデータじゃないとやくにたたないと思われてしまう。解像度があらくても使える部分はあるので、そこはしっかり使う人に説明する必要がある。

Q:ソリューションを提供する立場として、今後の方向性やビジョン

A:八木橋氏
お客さんのニーズに対応していくことが重要。何かひとつのニーズに対応するのではなく、広くニーズに答えるものをそろえていく。

A:大川氏
ニーズに対応することが重要。アプリケーション使ってもらうことが基本の事業だが、ニーズに対応したアルゴリズムなどをのせていくことをすすめる。

Q:これからの日本の海洋政策に何をしていくか、もしくは何を期待するか

A:吉田氏
海域の利用の促進、はばひろくデータを利用していく。海に興味を持ってもらうための海洋教育をすすめていくとともに、国民の安心安全につなげていきたい。

A:宮澤氏
海洋技術を日本独自に発展させていくことを期待したい。海洋に関する国民の理解をふかめていくことで予算をとってすすめていく。

A:八木橋氏
宇宙ビジネスはインターネットの黎明期と同じ。宇宙の方は政府もバックアップしてきている。海洋政策も日本にとって必要であるという意識を強めていくべき。

A:大川氏
漁獲量の問題、発電、防衛など海に関する話題はおおい。こうした問題をリモセンで解決できる部分もある。モニタリングするには宇宙から見るのが効率がいいので、もっと活発に利用できるインフラになるといい。

■まとめ

今回のセミナーでは、「日本は海に囲まれた国なのに、海に対しての興味が薄いのでは」という問題提起が印象に残りました。確かに、海洋という分野において従来からある課題だと思います。今回のパネルディスカッションでは、海洋を専門にしている方と宇宙を専門にしている方がまじっての討論だったので、現場にそった意見交換ができたと思います。既存の業界に対して、宇宙ビジネスが何をできるのかということを深く考えることができる有意義なセミナーでした。