宇宙と農業 – 超スマートアグリ・月面農場が地球を救う?! 宇宙ビジネスが農業をどう変えるか?

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2019.4.11セミナー

宇宙と農業 – 超スマートアグリ・月面農場が地球を救う?! 宇宙ビジネスが農業をどう変えるか?

4月9日(火)にNPO法人ナレッジポータルが主催する「宇宙農業 – 超スマートアグリ・月面農場が地球を救う?!」が開催されました。農業では既存の課題を解決するための手段の一つとして、日本だけでなく世界中で宇宙ビジネスや最新のテクノロジーを次々に取り入れています。一般の方でもニュースやドラマで、ドローンによる農薬の散布や、AIによる収穫期の選別、農機の自動運転といったことを目にしたこともあるのではないでしょうか。

さらに日本では「月面農場」というテーマで、もっと先の未来を見据えた超スマートアグリ研究が宇宙航空研究開発機構(JAXA)で進められています。近い将来、人類が月や火星など地球以外の星で生活するために、また地球の農業をよりよくしていくための研究です。具体的には「宇宙で食物を育て、廃棄し、リサイクルする」ことを実現するために必要なことを研究しています。

■セミナーの概要

今回のセミナーは、今農業で起きている宇宙ビジネスを使った変化と、今後の農業がどう変化していくのかを知ることができる貴重なセミナーです。ポイントをまとめますので、農業に関わる方のご参考になればと思います。

■開催概要
日時:2019年4月9日(火) 19:00~21:30
講師:矢野 幸子 氏
(宇宙航空研究開発機構(JAXA)主任研究開発員)
テーマ:宇宙農業- 超スマートアグリ・月面農場が地球を救う?!
会場:政策研究大学院大学 1階会議室1A

■講師 矢野 幸子(やの さちこ)
1997年宇宙開発事業団(現JAXA)、宇宙環境利用研究センター(有人宇宙技術部門きぼう利用センター)でライフサイエンス実験を担当。スペースシャトルや国際宇宙ステーションでの実験機材の開発と研究の実施、NASA調整に従事。 2009年日本実験棟で初となる植物長期栽培実験を成功させる。細胞培養実験、顕微鏡観察実験の実現に多大な貢献をする。2016年文部科学省科学技術・学術政策研究所にて最先端科学技術の調査と報告、30年後の将来社会のビジョンから科学技術予測を行う手法の開発、生物分野、宇宙分野を中心に科学コミュニケーションと政策立案への協力、ステイクホルダインボルブメントの観点から調査活動を実施。長年の宇宙実験プロジェクトのリード経験を生かして科学技術予測調査の設計を担当した。2018年6月にJAXAに帰任。ライフサイエンス実験計画調整業務を担当。博士(理学)

■宇宙開発と日本

まず初めに、国際的な宇宙開発の現状と日本のかかわりについて説明されました。

■JAXAについて
宇宙農場のプロジェクトは、JAXAにて進められています。JAXAは日本で唯一の宇宙機関です。
宇宙航空分野の基礎研究から開発・利用に至るまで一貫して行う機関です。国際宇宙ステーション(ISS)への参加・きぼう日本実験棟、小惑星探査機「はやぶさ2」などは最近メディアでもよく取り上げられています。

■国際宇宙ステーション(ISS)
国際宇宙ステーションは、世界15か国が共同で1998年建築を開始し、2011年に完成しました。
日本は「きぼう」という実験棟をISSに接続しています。また、「こうのとり」という輸送船で物資を運ぶ役割をになっています。

この国際宇宙ステーションの主な特徴としては下記があります。
・微小重力(地球の上空400㎞に位置するので重力が小さい)
・宇宙放射線(大気がないので太陽からの放射線をもろに受ける)
・閉鎖空間(3~6人くらいで、宇宙に住む実験をしている)

上記のような、地上とは異なる条件で「重力がない状態でなぜ体が弱っていくのか、重力を体はどう感じているのか」などを植物や動物を使って実験しています。現在、全体で2000以上、日本では500以上の実験を実施しています。さらに、ISSから衛星を放出するなどの商用利用も少しづつ始まってきています。

■国際宇宙探査ロードマップ
 

国際宇宙探査ロードマップでは、2020年代には月に、2030年代には火星に行くことを計画しています。現在のISSにおける地上400㎞での実験は、そうしたもっと遠くにいくための練習だとしています。まだ火星への到達はロケットの技術や居住の課題などが多く現実的にはなっていませんが、月探査はかなり具体的なプランになってきており、国際的な協力で「深宇宙ゲートウェイ」を作ろうという議論がされています。それに関連して、月面拠点や月面与圧ローバなど、国際的なモジュールを担当したいと日本は検討しています。
 

 
また月探査は、さらに遠くへいくという目的においても重要な役割を担っています。火星に行くことを考えると、物資や食料を現地調達、処理できることは必須になります。地球から物資や燃料などを持っていくよりもはるかに楽でコストも抑えられます。また、月で調達できる方が重力も少ないのでもっと遠くの星に行くためにも重要になってきます。だからこそ、月でいろいろな実験・練習をして、その技術を火星やもっと遠くに持っていこうと国際的な宇宙機関は考えています。

アポロの時代→すべて地球で調達
ISS→多少は現地で調達(太陽光発電や水のリサイクル)
今後→すべて現地調達、再利用、自動化

■月面農場とJAXAのワーキンググループについて

上記のような「地産地消型」を実現するために、JAXAでは「月面農場ワーキンググループ」を組織しています。月に定住していくとしたらどんな技術や要素がいるのかを検討した結果として、下記「月面農場」のイメージを共有されました。

月面農場ワーキンググループ検討報告書より引用

ポイントとしては、月の地下に施設が半分埋まっていることです。月では大気の層がないので、隕石や紫外線が強く、表面は安全ではないため、月面の地下に潜った方が良いのではと考えこのイメージとなっています。人が住んだりする居住区も、地下に埋まっています。

上記のような宇宙農場を実現するため主に下記テーマに4つのグループに分かれてたくさんの実験を進めています。
■月面農場WGのサブグループ
1:環境抑制(栽培技術)
水や光、大気などの制御、それぞれの栽培植物に適した環境制御
食料の安定供給を目指す
栽培植物の選定(とってすぐ食べられる、栄養素のバランス、ちゃんと育つかなどがポイント)

2:無人化(高効率生産)
栽培環境の維持、収穫までのモニタリング、無人化・ロボット制御
新ビジネスの創出
人がいなくても栽培できる(収穫方法も作物によりことなることなどがポイント)

3 リサイクル(物質循環)
資源の再利用、非可食部や排泄物等のリサイクル
物資再生設備システムの開発(居住区と生産区でぐるぐるまわせるシステム)

4 全体システム
システム全体の統合を検討

■まとめ

月面での栽培、再利用技術がすすむことで、地球上でおきている課題と、宇宙に出ていく課題の解決に役立つことが期待されています。
・地球上
極限状態(砂漠や南極など)での植物栽培の実現
理想的な循環システムができるようになる可能性
・宇宙
火星や木星などへの移住、宇宙探査

すでに宇宙用に発明したもので、身近になっているものとして下記のようなものがあります。
・LED(エネルギー効率がよいものとして宇宙用に開発したが、地上でも活用)
・多段栽培(狭い面積で効率よく栽培するためNASAが発案)

宇宙ビジネスは、今後の10~20年でさらに大きく変化していきます。映画や小説の中の世界が現実になろうとしています。今回は農業を中心にしたセミナーでしたが、農業を目的として開発された技術であっても、農業だけでなく地球上の生活やビジネスにも影響を与える可能性はとても大きいです。ぜひご自身のビジネスがどう宇宙ビジネスにかかわっていけるかもこの記事を参考に検討していただければと思います。

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