編集長の呟き ~超小型衛星利用シンポジウム~
2019年3月18日から19日に東京大学工学部2号館で超小型衛星利用シンポジウムが開催されました。本シンポジウムでは、欧米で超小型衛星が有効に利用されつつある宇宙科学・探査、地球観測分野における超小型衛星(探査機含む)ミッションの可能性を探ることを目的とします。
登壇者は東京大学教授陣はじめ大学関係者を中心に40名余。日頃はJAXAや民間企業の動向を注視しているので、新たな視点を持てたように感じます。典型的な文系人間の私が、技術的な知識をどこまで理解出来たかは微妙ですが、印象に残った点をお伝えしたいと思います。
■基調講演「超小型衛星による深宇宙探査のこれまでと将来展望」
東京大学の船瀬龍氏は「日本における超小型深宇宙探査の課題は、①予算がない②戦略がない③人材とフライト機会が少ない④信頼性の壁(JAXAが実施する場合のみ?)です。それぞれの解決策として①超小型を適性な規模の資金/頻度で推進出来る制度を整備し、②地球周回も含めて広い視野で、ミッション(プログラム)とそのための技術開発戦略を国/JAXAレベルが大学等と協力して取りまとめて、③国/JAXAが資金を投じて、専門技術を持った研究・開発拠点を育成し、高頻度で多様なフライト機会を整備して、人材と技術を育成し、④コストに見合った適切な信頼性・品質確保の方法を見いだし、コストVS信頼性VS開発期間(⇔頻度)のバランスの取れた超小型流のミッション推進方法を実現する。」と提案しました。
■地球観測の講演「早期軌道上実証への取組と小型SAR衛星の開発」
東京大学の小畑俊裕氏は「CubeSatプラットフォームによる軌道上実証スケジュールでは、契約から1年以内に打上げ、実証機器引き渡しから運用まで最大8ヶ月。プラットフォーム+打上げ予算規模は25百万円程度から可能。(打上げはISS放出に関するJAXA―東京大学の枠を使用可能)」「現在の衛星データは希少で高価であるため、政府・自治体が戦略・長期ニーズに基づき利用している。今後は小型衛星が数多く配備されることで、データが安価に配布されるので、天気予報のように、日々のビジネス・個人の意思決定に衛星データが利用出来る時代になる。」と将来を予測しました。
■宇宙へのアクセスの講演「CubeSatで宇宙利用を加速する—Rapid IODプラットフォーム構想」
慶應義塾大学の平松崇氏は「3U CubeSat Platformを用いた軌道上実証&実践教育やISS放出機会をベースに、3~6ヶ月単位の短サイクルで軌道投入をコンスタントに繰り返すことで早期の軌道上実証を実現すること。バス機器をKitとして販売・それを利用する視点だけではなくミッション内容調整、ユーザ機器I/F調整、衛星運用・データ配信までのサービスの視点も重要。目的/目標を絞り、コンパクトかつ確実に達成するマインドが大切。」と提言しました。
■「超小型衛星による地球観測の今後とエコシステムの提案および討論」
東京大学の中須賀真一氏は「重要な点として、政府の資金を呼び水として、利用省庁、研究者独自の努力(科研費など)、官民ファンドなどからの資金流入を狙いたい。」「進め方として、超小型衛星利用コミュニティの発展と技術側との連携,バス開発側は技術・衛星開発を通してさらに発展,ミッションアイデアリスト、技術開発リストを整備したい。」と表明しました。
産官学連携は、それぞれの観点に立って考えないと、壁を越えて良好な関係を築くのは難しいと感じました。中立的な立場で幅広く取材活動をしているメディアこそアイデアを出す必要がありそうです。