宇宙ゲームシリーズ3 ゲーム感覚で宇宙技術者を目指そう:研究者も唸るシミュレーションゲーム特集
みなさん、こんにちは。本連載では、たくさんの「宇宙ゲーム」を紹介していきます。
今回の記事でご紹介するのは、お手持ちのMacやWindowsのPCでプレーできるシミュレーション・ゲーム。技術的なリアリティにこだわることで、単なる娯楽にとどまらず、宇宙技術者の教育を行う役割も担っているゲームを中心にご紹介していきます。
SpaceX社のCEOイーロン・マスク氏も、これらのゲームの大ファンであり、時にはゲーム開発者にロケット開発のアドバイスを求めることもあるそう。ゲームと現実が交差する宇宙開発の現場で今熱い注目を浴びているゲームを、まとめてご紹介します。
①本格航空力学が学べる宇宙船建造シム『Kerbal Space Program』
https://store.steampowered.com/app/220200/Kerbal_Space_Program/
最初にご紹介するのは、メキシコに拠点を置くゲームデベロッパーSquadが開発した『Kerbal Space Program』です。
対応機種は、Windows、Mac OS X、Linux。
今までのエンタメ要素の強いゲームとは打って変わって、こちらは超本格派の宇宙船建造シミュレーションゲーム。大学院レベルの航空力学と軌道力学に基づいた環境下で多数のパーツを組み合わせて機能する宇宙船を設計することを要求される、ハイレベルなゲームです。ここまでいくと、もはやゲームと呼んだらいいのか、宇宙技術者養成プログラムと呼んだら良いのかわからなくなってきますが、理系に疎い初心者でもプレーするうちに楽しく設計できるようになるのが本ゲームの魅力です。最初はロケットをまっすぐ飛ばすことさえ難しいのですが、 だんだんコツが掴めてくると、地球を周回したり月面に着陸したりすることができるようになります。
宇宙船の設計を目指すのであれば、高校生からでも、あるいは航空力学を学んだ大学院生や研究者などもプレーする価値があるゲームだと言えるでしょう。実際、筆者の教え子の中にも、本作をプレーしたことをきっかけに宇宙技術者になることを志した若者が何名かいます。また、Space X社のイーロン・マスク氏も「Kerbal is awesome!」と絶賛し、さらにはゲーム開発者に対して、SpaceX社のコスト削減のために何かアイデアがないかと相談しているそう。たかがゲーム、されどゲーム。ロマンが広がります。
②ドローン設計に特化した本格シム『Nimbatus』
https://store.steampowered.com/app/1243130/Nimbatus__Drone_Creator/
次にご紹介するのは、Stray Fawn Studioが制作した『Nimbatus』です。
対応機種は、Windows、Mac OS X、Linux。
もともと2017年にKickstarterから立ち上がったプロジェクトという出自もあり、非常にユニークでニッチな分野に切り込むゲームとなっています。先ほどご紹介した『Kerbal Space Program』が宇宙船やロケットの建造を扱っていたのに対し、本作はドローン建造に特化したシミュレーションゲームとなっています。
プレイヤーは機動ドローン工場のキャプテンとして、ブロックやスラスター、燃料タンク、シールド等、75個以上のパーツを自由に組み合わせ、さらには論理回路で自律的に動く機能などを搭載したドローンを作成し、様々な惑星を探索してミッションをこなしていくことになります。
ドローンというと、映画やドラマの撮影現場で空撮として利用されたりするイメージが強いかと思いますが、宇宙開発の現場で用いられるドローンは、無人で着陸するための強靭性や予測不可能な事態への対応力などが要求されます。漫画『宇宙兄弟』の中でも、無人ドローン設計に苦心する場面が描かれていましたが、小回りの効くドローンはミッション成功の鍵を握る重要な要素。宇宙技術者を目指すのであれば、『Nimbatus』と併せてプレーしておきたい「必修」ゲームですね。
③火星有人探査を行う宇宙企業経営シム『Mars Horizon』
https://store.steampowered.com/app/765810/Mars_Horizon/
次にご紹介するのは、Auroch Digitalが制作した『Mars Horizon』。
対応機種は Nintendo Switch、PS4、Xbox One、Windows macOSです。
火星への有人宇宙探索ミッションをモチーフにした本作が誕生したきっかけは、開発者の Tomas Rawlings氏が、2015年に小説『火星の人』(映画『オデッセイ』の原作)とイーロン・マスクの伝記を読んだことだったそうです。そこから、イギリス宇宙局と欧州宇宙機関ESAによる制作のサポートを経て、リリースされる運びとなりました。
「宇宙企業経営シム」と呼ばれる本作は、プレイヤーがアメリカ、ESA、中国、ソ連、日本のどれかを選択した上で、各機関の予算をもとに人工衛星の打ち上げ、有人宇宙飛行、太陽系の惑星への探査機派遣、月面着陸などの宇宙開発競争を行っていく一連の計画を「経営」してい くというゲームです。これまでにご紹介した『Kerbal Space Program』や『Nimbatus』がどちらかというと技術に偏った内容だったのに対し、本作は限られた予算をどのように配分してミッションを成功に導くかといった経営的な側面が前面に打ち出されています。その意味で、これら3つの作品をやり込むことで、イーロン・マスクの跡を継ぐ宇宙技術者にふさわしい経営的・技術的センスを身につけることも夢ではなさそうです。
④乗組員を効率的に運営する宇宙船建造シム『Cosmoteer』
https://store.steampowered.com/app/799600/Cosmoteer_Starship_Architect__Command er/
次にご紹介するのは、Walternate Realitiesが制作した『Cosmoteer』です。
対応機種はGeForce Nowと Microsoft Windows。
今までにご紹介した3作品とは打って変わって、SF色の強い本作ですが、「宇宙船建造」に特化したシミュレーションゲームとして、一味違った知能が要求されるゲームになっています。
宇宙船を設計するシミュレーションゲームが多数ある中で、本作をユニークにしているのは、なんといっても「乗組員」の動かし方が鍵を握ることです。通常、メカ設計のゲームでは、船内パーツの設計をしたら後は機械が自動的に動かすという設定が多いのですが、このゲームの中では、砲塔の操作も弾薬の補充も、そしてリアクターのエネルギーを推力装置に届けるのも「人力」でやる部分がリアルに描かれます。プレイヤーは、宇宙船の乗組員が効率的に作業を行える環境を整えることによって最終的な宇宙船運営を効率化するという視点で、「人間工学」を意識して宇宙船を設計する必要があります。その意味で、現実の宇宙船運営のノウハウ が蓄積されるゲームとなっていると言えるでしょう。
『Kerbal Space Program』がメカに特化した宇宙船建造だとしたら、こちらは「人間」に特化した宇宙船建造。現実世界においても、工場の設計や人員配置の仕事などでも役に立つスキルを身に付けさせてくれる有益なゲームです。
⑤不死のAIになってコロニーを運営する宇宙船シム『Stardeus』
https://store.steampowered.com/app/1380910/Stardeus/
最後にご紹介するのは、Paradox Arcが制作した『Staredeus』です。
対応機種はWindows、Mac OS X、Linux。
壊れた宇宙船を舞台に、宇宙探索、工場自動化、コロニー運営などを行うシミュレーションゲームなのですが、本作の特徴はなんといっても、主人公が宇宙船を管理するAIシステムそのものであること。
プレイヤーは不死のAIシステムとなって、ドローンに指示を出し素材を集め、施設の修復・建設・生産の自動化を行うことになります。また、宇宙船に乗っている人間たちやコールドスリープしている人間たちのために、酸素や温度、食料といった生存環境を整えることで、彼らを働かせて効率化をアップすることができる、というシュールな設定も笑いを誘います。
キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』では、人工知能によって意識を持った宇宙船「HAL」が暴走して乗組員に襲いかかるという設定でしたが、それを逆手に取って、AI目線で人間たちと協力して壊れた宇宙船を建て直すという発想がユニークですね。
先ほどの『Cosmoteer』が宇宙船一機を扱う経営だったのに対し、本作はスペースコロニー全体の管理を任される点で、大企業経営のような視点を身に付けられるゲームとなっています。
いかがでしたでしょうか。
次回の連載では、「アーケードで星を旅する!懐かしの宇宙テーマのアーケードゲーム」と題して、懐かしのアーケードゲームたちを紹介していきます。お楽しみに!