宇宙人とUFOシリーズ3 なぜUFOは人を攫うのか:アブダクション現象の歴史

「アブダクション」という言葉は、「UFOによる誘拐」を意味します。 夜家で寝ていたら、牽引ビームで持ち上げられていつの間にか宇宙船の中にいて、チップを埋め込まれたりエイリアンの子を妊娠させられていた、などというケースが、70年代のアメリカで頻繁に報告されました。 日本においては、単なる金縛りの一環であるとか、アブダクションを受けたという述懐をするのは精神疾患の一つであるなどという乱暴な説明も散見されます。 実際、アブダクションを受けたという報告は、近年減少傾向にはありますが、水面下では報告され続けており、無視できない現象だと言えるでしょう。

アブダクションとキャトルミューティレーション

アブダクションとしばしば混同されるのが、同じくエイリアンによるものとされる「キャトル ミューティレーション」という怪現象です。この言葉は、「朝起きると、牛を代表とする家畜が惨殺されており、臓器がすっぽり抜き取られ、血液が完全に搾り取られていた」といったような現象を指します。 それに対して、アブダクションとは、厳密に定義するとすれば「人間型生物によって人々が連れ去られ、何らかの種類の空間の中で様々な行為やコミュニケーションが行なわれる現象」のことを指します。 具体的には、以下のようなプロセスをたどります。 ①自宅のベッドや車の中、ドアの外にいて、明るい光やハミング音、近づいてくる奇異な乗り物やヒューマノイドに意識を乱される。 ②自分の意志に反して体が浮き上がり、機械装置のある円形の囲まれた空間に連れて行かれる。 ③様々な種類の医学的・外科的な検査や処置を受け、トラウマ的な体験をする。 ④上記のプロセスを通じて、コミュニケーションは一貫してテレパシー的な伝達を通じて行われ、霊的な真理や地球の現在の状況についての様々な情報が伝達される これらが、数百件以上のアブダクションの報告に共通して見られる内容です。数件しかなければただの妄想として片付けられるかもしれませんが、報告事例の多さが、この現象の普遍性を証明していると言えるでしょう。

ハーバード大医学部教授ジョン・E・マックの研究

このようなアブダクション現象を真面目に研究したアメリカの研究者の一人が、ハーバード大医学部教授のジョン・E・マック氏です。80年代後半からこの分野に興味を持ったマック氏は、退行催眠を通じて800人以上のアブダクティ(アブダクション体験者)の深層意識から当時の記憶を引き出していきました。彼の真摯な研究成果により、それまでは単なるいかがわしい疑似科学だと見なされていたアブダクション研究が、一気に信頼度を高めることになりま す。 ちなみに、みなさんご存知「グレイ」というアーモンド型の目をしたエイリアンの相貌も、このマック氏の研究によってミームとして世界中に広がることになりました。

シャーマンたちとエイリアンの交流の伝統

現代を生きる我々にとっては、「アブダクション」という現象を受け入れることは難しいことかもしれません。しかし、実はブラジルや南アフリカに住むシャーマンやネイティブ・アメリカンたちにとっては、それは決して不自然なことではないようです。そもそも彼らの中には、 エイリアンあるいは「スター・ピープル」が自分たちの文明の基盤を築いてくれたのだという神話を代々受け継いでいる部族がかなりの割合で存在します。つまり、エイリアンの存在は彼らにとって日常であり、常識の一部なのです。 比較的最近の事例で言えば、ネイティブ・アメリカンのスー族のメディスンマンとして尊敬を集めたブラック・エルクが、民族学者によるインタビューに応じて以下のように語っています。 「もしもあなたが月に行きたいと思えば、彼らはそこにあなたを連れてゆくだろう。彼らはあなたを小型の空飛ぶ円盤の一つに乗せる。そして瞬時にあなたをそこに連れてゆくのだ。それから、彼らはあなたを元のところに連れて帰る。」 「UFO(未確認飛行物体)」という名前自体がタチの悪いジョークであると嘲り笑うブラック・エルクにとって、天から与えられたコンタクトの能力を失った現代科学は哀れに映るようです。 UAPと同様、アブダクション体験も、似たような体験をたくさんの人が報告しているという点で、否定しようもない事実です。マック氏自身、「彼らの体験を精神疾患の一環として片付けて自分の中の旧来の世界観を守るか、それとも自分の世界観そのものを変更するか」の二択を迫られたと言います。それだけ、精神疾患や金縛りといった従来の精神科学では説明のできないような供述がたくさん出てきているのですから、アブダクションという体験を理解するには、西洋的な科学文明の根底に横たわる「精神」と「肉体」を二分する偏見そのものを相対化 して眺めてみることが重要なのかもしれません。 なお、これらの体験を報告しているシャーマンの多くが、マジックマッシュルームやアヤワスカをはじめとした幻覚性植物を用いて変容意識状態を経験していることは見逃せない事実で しょう。

単なる物質現象ではない「アブダクション」の秘密

シャーマンの事例を通してわかるように、古来からエイリアンあるいは「スター・ピープル」との交流は、変容した意識状態によって行われてきた伝統があります。つまり、私たちが通常の生活を営んでいる物理的な現実にそのままエイリアンがポンと出現するというより、私たち自身の意識が変容し、その特異な意識状態の中で「アブダクション」が遂行されるという形に近いのかもしれません。つまり、アブダクションは、単なる人間の表面意識を超えた、より深い人間の精神構造を理解しない限り、本質的究明が難しいものである可能性があります。 70年代から80年代にかけて流行した「サイケデリック物質」による精神の変容の科学的分析も、この流れと密接に関係しています。例えば、幻覚性植物研究の第一人者であった思想家のテレンス・マッケナは、マジックマッシュルームを摂取した際にエイリアンと遭遇したことを報告しています。

「無意識」の発見と「現象学」の発明はエイリアン遭遇への地ならし?

この視点から照らすと、19世紀後半にフロイトが「無意識」を発見し、ユングがその解釈を拡張してきた「集合無意識」の心理学の発展の流れは、エイリアンとの交流を本格的に開始するための科学的な地ならしと見ることも可能です。現代科学の中では、物理学と心理学の間に厳 密に境界が設けられていますが、実際には同時代の発見は後から振り返ると驚くほど緊密に連携しあって私たちの世界観を築き上げていたことに気づきます。一例をあげれば、20世紀数学における「構造主義」がレヴィ・ストロースを筆頭に哲学界にも大きな影響を及ぼしたのは、
「目に見えない構造=無意識」が私たちの感知しないレベルで認識を作り上げているというフロイト由来の信念なくしては説明できないでしょう。 また、エドムント・フッサールが提唱して以来20世紀哲学において大きな影響力を持った「現象学」という思想も、このような科学的理性に反する超常現象を前にしても怯まずにただある がままを記述するための精神態度の地ならしとなっている点も見逃せません。現代科学において認められている理論や常識に反することが目の前で起きている場合に、それを無視するのではなく直視し、未来の科学のために記述することを怠らない姿勢は、マック氏の著作を貫いて流れる真摯な研究態度です。

人類への黙示録と「ハイブリッド・プロジェクト」

では、エイリアンはいったい何のために人間を攫うのでしょうか? その説明として複数のアブダクティが証言しているのが、「ハイブリッド・プロジェクト」というエイリアンの計画の存在です。 マック氏の研究によると、アブダクティのうち、女性の多くはエイリアンとの合いの子である 「ハイブリッド」を妊娠させられたという記憶があるようです。このような女性のことは「ブリーダー」と呼ばれます。そしてその目的は、「人類が地球を滅亡させた場合のバックアップを残しておくこと」。その「ハイブリッド」とは、純粋な物理的身体を持つ存在ではなく、半分物理的、半分は精神的な形で存在する新種の人類として描写されます。アブダクションを受けてエイリアンの子供を孕ったと主張するアブダクティの多くが検査を受けても妊娠の兆候が実際には観測されない 理由も、彼ら「ハイブリッド」が物理的な形では存在しないからという説明で納得できます。 アブダクティたちの多くは、テレパシー的伝達を通して、人類が自らを破滅させるという黙示録的ビジョンを見せられるそうです。近年、核戦争をはじめとする世界大戦の危機が迫っている中においては、決して現在も他人事とは言えない状況だと言えるでしょう。ブリーダーたちが生を授けた、不可視の「ハイブリッド」たちが必要にならないように、地球人が存続する未来を切り開いていきたいものです。 次回は、今回のテーマをさらに深める形で、「どのようにエイリアンと対話するのか」と題して、コンタクティーによる証言の歴史を辿っていきます。お楽しみに!