国際宇宙探査シンポジウム
2019年3月12日に国際宇宙探査シンポジウム『持続的な宇宙探査に向けて~科学、産業と社会、共創新時代へ』が開催されました。現在、日本政府及び国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)が参画を検討中の国際的な枠組みで行う国際宇宙探査活動に関し、国内外の最新の状況を紹介することを目的としたシンポジウムです。
特に、月・火星における取組みを中心に、産官学からの関係者及び多様な領域の専門家の方々が登壇され、国際宇宙探査の価値や将来像、産業界から見た宇宙探査・利用活動、月での新産業形成に向けた方策や産官学パートナーシップ等について議論が交わされました。参加者は数百人程で、シンポジウムは3つのSessionで進められました。
■Session1:国際宇宙探査の最新動向と展望
基調講演はJAXAの若田光一氏の「国際宇宙探査に向けて~世界の動向と日本の取組み」でした。
「国際宇宙探査とは、天体を対象にして国際協力によって推進される有人宇宙探査活動及びこの有人探査のために先行して行われる無人探査活動であり、範囲は地球低軌道より遠方。JAXAとして、当面、月(周回軌道を含む)、火星(衛星を含む)を対象とする。」
「国際宇宙探査の目的・意義は、人類の活動領域の拡大と知的資産の創出への貢献の両輪です。他にも産業振興・技術イノベーション,国際プレゼンス,国際平和,教育・人材育成などがあります。」
「地球低軌道を経済活動の場へ⇒月近傍拠点により月面へのアクセスを効率的に⇒月面を科学探査等の多様な活動の場へ⇒火星衛星を中心とした科学探査の推進と火星へのアクセス拠点化の流れとなる。」
「2018年2月米国予算教書にて、月周回軌道の有人拠点としてGatewayが発表されましたが、Gatewayにおける日本の分担は有人宇宙滞在技術と深宇宙補給技術になりそう。(調整中)」
国際宇宙探査の今後に向けて、産業界やアカデミアをはじめとする皆さんの力が必要であると話を締めました。
■Session2:宇宙探査産業の拡大~持続的な探査活動に向けて
パネルディスカッションは主にビジネス分野,研究開発,国際連携と日本の強みについてQ&A形式で話されました。
Q「民間営利企業として利益を出せるのはどこなのか?いつなのか?」
A「人の生命に関わる健康,医療や自動運転などとの連携をどうするかが大切。」(三菱重工業株式会社渥美正博氏)
A「宇宙探査は昔の大航海時代に似ている。全て宇宙に持っていけないので、現地でどれだけ調達出来るか考える必要がある。」(清水建設株式会社金山秀樹氏)
A「非競争領域である。マーケットを大きくしないと、誰も儲からなくなる。」(東京大学中須賀真一氏)など。
Q「新規ベンチャーの参入障壁とは?」
A「宇宙ビジネスの障壁は心。思考停止になってしまい、次の第一歩を踏み出さない。使える技術もあるし、出来ることも見つかっていく。」(株式会社ispace袴田武史氏)など。
Q「宇宙で研究・開発する意味や地球上でのAI/Roboticsなどの展開の可能性は?」
A「宇宙は歩く必要がない。宇宙向けロボットが出来ると地上でも使える。宇宙ステーションも全て無人にすると費用も安くなる。」(東京大学中須賀真一氏)など。
Q「日本のプレゼンスや宇宙産業成立に向けて、学ぶべき海外事例は?」
A「スペースXの例で言うとサービスの購買。宇宙以外の産業も巻き込まないとマーケットが大きくならない。宇宙では高品質が求められるので、日本が一番強い。」(株式会社ispace袴田武史氏)
A「産官学連携が大切。政府が戦略を立てる時から民間も入る。国際連携も日本からやらないとだめ。日本から発信しないと主導権が握れない。」(東京大学中須賀真一氏)
数多くの斬新な考えが出されたので、将来の方向性が示されたように感じます。
■Session3:国際宇宙探査の展望~科学×産業×社会の共創可能性
パネルディスカッションは、産学+JAXAが協働してどういう形で探査を推進していくことで、より広い範囲からの参加を得た形で探査を推進することへとつながるのかというテーマでした。
「大組織の活性化やイノベーションを起こすのは難しい。どうしても組織の発想になってしまうので、JAXAとのオープンイノベーションで問題解決の仕方を学べる。」(株式会社ボストンコンサルティング秋池玲子氏)
「宇宙探査は、産業界から引っ張る必要があるが、産学で距離があるので、付き合い方を考える必要もある。」(株式会社三菱総合研究所羽生哲也氏)
「地球外資源開発に向けた新しい科学・工学が必要なので、おそらく国際的に新しいコミュニティが出来る。」(東京大学宮本英昭氏)
等多様な視点からあるべき姿が垣間見えました。
■トヨタと宇宙探査
最後に嬉しいニュースの知らせです。国際宇宙探査シンポジウムの開催日(2019年3月12日)にJAXAとトヨタ自動車株式会社は、国際宇宙探査ミッションへの挑戦に合意しました。トヨタ自動車株式会社寺師茂樹氏より「電動車両は普及しないと地球環境への貢献になりません。
トヨタは『電動化フルライン』メーカーとして、電動車両の普及を目指して完成車だけでなく、システムや技術など様々な形でお客様に提供したいと考えています。今回の共同検討もその一環であり、チームジャパンの一員に仲間入りさせていただき、宇宙へチャレンジしたいと考えます。」と報告がありました。宇宙産業においても、チームジャパンの大黒柱になる日は近そうです。